背中がゴツゴツする。
ぎこちなく腕を伸ばせば何かひんやりとしたものに当たり、いつものフローリングの床や壁とは違う、石のような感覚に、頭の中に疑問符が浮かぶ。
自分が何か、固い地面の上に仰向けで寝かされていたことに気付き、ゆっくりと上半身を起こした。
不安になって目隠しを外そうとしたところで、不意に手首を掴まれ強い力で遮られてしまう。
「バクラ……?」
「おっと、誰がそいつを外していいと言ったんだ……?」
「ッ!!」
地面に押し倒されながら頭上から降ってきたいつもの声に、たった今覚えた疑問を忘れたちまち安堵する。
私の手首を掴んだ力強い手はするりと離れ、胸のラインを滑り下半身へ落ちていった。
太腿をまさぐる手に、スカートの下の無防備な部分が反射的に脈を打ち思わず脚を閉じる。
「や……!」
頭の隅に何か違和感を覚える。
今太腿を撫でたこの手は、バクラのもの、に決まっている……、のだが……
「あっ!! だめ……っ!」
おもむろにスカートの下をまさぐられ、はしたない下半身の状態をいきなり晒すのは恥ずかしいと咄嗟に手で遮ってみれば、触れたその手の感触に、違和感が警告音に変わった。
「ッ……!?」
ざわ、と身の毛がよだつ。
考えてみれば、はじめからおかしかったのだ。
私を組み敷いた目の前のバクラ『であるべき』人物の位置と……
先程頭上から降ってきたバクラ『に違いない』声の位置が、微妙に噛み合わない気がする。
そして何より、今触れたこの手……
バクラの手が、男性にしては華奢ないつものそれとは違い、もっと大きくてゴツゴツしてるような――
「おい、コイツがあることを忘れるんじゃねぇよ」
「あっっ!!」
ぐい、と首輪から伸びた鎖を引っ張られ、頭の中の警告音が確信に変わる。
「やっ……!!!
だ、誰……ッッ!?」
頭上から降ってきた声と鎖が引っ張られた方向は一致していて、声からしてそれはバクラに違いないのだが、やはり決定的に自分の身体に触れている人物とは位置が合わないのだった。
「やだっ……!! バクラ……!!!
っ、この人、誰……!? やだ……!!」
背筋がさあっと冷たくなり、頭を殴られたような衝撃を覚える。
今自分に触れているこの人物がまさかバクラではないかもしれないなんて。
嫌だ。
他の人に触れられるのは――!!
「そう暴れるんじゃねェよ……!
そいつのことは、貴様も知らないわけじゃねえんだぜ」
「え……、」
滲みかけた涙がふと止まり、頭の中を様々な可能性が去来する。
「何度も言わせるんじゃねえよ……!
オマエは今オレ様のメイド、つまり奴隷みたいなもんだ……!!
つべこべ言わずにちゃんとそいつの相手をしてやるんだな……!!」
「ッッ……、あああぁっ!!!!」
バクラが冷たく言い放った瞬間、太腿にかけられた手が強引に閉じた膝を割り、潜りこんだ熱い指先が躊躇なく下着をつけていない部分をなぞりあげた。
「っあ……ッ、だめ……っ!!!! ぁ……!!!」
すでに自分でもわかるほど潤いを帯びていたソコは、少し指でなぞられただけで決壊し、蜜を溢れさせてくちゅりと音をたてた。
恥ずかしさで爆ぜる頭と、背筋を貫いて理性を破壊していく甘い痺れに、どうしていいかわからなくなって自然と涙が溢れ布に染みこんでいく。
「や……、バクラぁ……、や……!!」
シャラリという鎖の擦れる音が近付いて、頭上に居たバクラが近付いてくる気配がする。
「ククッ……、そこに居るもう一人が誰なのか当てることが出来たら、その目隠しを外してやってもいいぜ……!
当てられないのなら……仕方ない。
不安な気持ちを抱えたままそいつに犯されちまうんだな」
「そ、そんな……!!
……っあ! ッ、やっ、あぁっ……!!」
犯されるという言葉が耳をつき、今置かれている自分の状況を改めて理解すると、バクラ以外の相手に身体を暴かれることに対する恐怖が全身を支配した。
――が、そんな危機感を消し去るように下半身をまさぐる指は一番敏感な芽の部分を探り当て、当然のようにぐにぐにと刺激を与えていく。
「あっ……、や、なのに……っ!!」
理性的な拒否感が揺らいで、本能が頭を擡げ始める。
同時に、今自分の恥ずかしい部分をなぞっているこの手に、何だか既視感を覚えはじめる始末なのだった。
「あ、あなたは……」
脳裏に蘇るいつかの記憶。
バクラよりも逞しくて、熱いその手。
状況は違えど、こんな風に私は逆らえずに、身体を開かれて……
そして真実を知って、縋り付いて、噴き上がる炎に身を焦がして悶えたのではなかったか――
そう。
その相手とは――――
喉元までその正体が出かかったところで、熱いものに唇を塞がれる。
「んっ……!」
咄嗟に顔を背けようとしたが、顎を掴まれて半ば強引に舌を捩込まれ、呼吸を奪われた。
「ゃ……っ、んんっ……」
位置的にこれもバクラではない。
他でもない、目の前の「誰か」の仕業であった。
顎を固定されざらついた舌に口内を掻き回されながらも、もう一方のその手はぬるぬるととめどなく潤む下半身を弄び続け、更には遮断された視覚がその刺激をさらに高めているように思えた。
「どうした桃香……まだわからねえか? そいつのことがよ……
わからねぇんじゃ仕方ねえな」
「んっ……!」
わからないわけじゃない。
本当はもう、とっくに気付いてる。
でも――
この「もう一人」の正体を当ててしまったら、目隠しを外されてしまう。
もちろん、たったさっきまでは、この不安ばかりを生む目隠しは外してほしいとただ願っていた。
だが、今は…………
胸の奥に潜む自分の欲望を計らずも理解する羽目になり、絶望的な気分になる自分がいる。
しかし同時に、その欲望を受け入れて従えと叫ぶもう一人の自分もいた。
ひとしきり口内を蹂躙されたあと、私がようやく紡いだのは。
わからない……、という偽りの一言だった――――
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bkm