見透かされた想い3



こんな急展開おかしいよとか、バクラなんていう邪悪な魂に身体を預けて良いの、なんていう疑問が少しは頭を霞めたが、どれも今の私には楔にはならなかった。


――バクラに腕を引かれ、ベッドに放り出される。

体勢を整えてバクラの顔を伺う暇もなく、覆い被さられて、また唇を塞がれる。

背中に押し付けられたベッドの感触――そして、呼吸を奪っていくのはバクラの唇で。

ちゅ、ちゅむ……と僅かな音を立てて吸われ、絡めとられる舌に意識がぼやけ、気付くと私は無意識にバクラの首筋に腕を回していた。


正直、バクラがどんなつもりなのかはわからない。

邪悪な魂とはいえ、目の前に自分を好いてくれる都合の良い女がいるからヤっちまおう――
なんていう、人間くさい存在だとは思えなかった。

まあ、買い被りすぎかもしれないけど……


しかし今はもうどうでも良い。

愛しい人、恋い焦がれた人にどんな形であれ、求められている事がただ嬉しい。

私はこの熱に溺れることにした――




バクラに唇を塞がれたまま、その白い手に服の上から荒々しく胸をまさぐられた。

未だ経験したことのない感覚に、ぞわぞわとした痺れるような感覚が全身に広がっていく。


「やっ……、」

シャツの裾から侵入するバクラの指先。
素肌を心なしか冷たい手で撫でられて、思わず身震いしてしまう。

しかし触れられた部分はすぐに熱を生み、首から上はすでに緊張と羞恥から溶けるほど熱く火照っていた。

しなやかな指先がさらに肌を侵し――抵抗する間もなく、そっと胸の突起を弾く。

「ゃ、あっ……!」

触れられた先から、つんざくような電流がたちまち全身を駆け抜けていった。

「ククッ……いい声で鳴くじゃねェか」

バクラは嘲笑うような声で呟くと、すでに乱れたシャツとブラを掴み下から一気に捲りあげた。
冷たい外気が素肌を撫で、あ、と声を漏らす余裕もなく――胸の突起に、ぬるりとした感触。


「あんっ……!!
やっ、ぁ……!!」

抑えきれない声が漏れ、身体は無意識にビクリと跳ねた。

思わず口を手で押さえる。

この家に他の家族はいないとはいえ、集合住宅である以上、あられもない声が近所に聞こえてしまったら一大事だった。

「ッッあっ……!!」

固いもので胸の先を優しく押し潰され、それがバクラに乳首を甘噛みされたのだと気付いた時には、声を抑えていた手は力ずくで引きはがされてベッドに縫い付けられていた。


「……、なかなか悪くねェ反応だな……
ハッ、もっと喘いでみな……!
オレ様に溺れちまえ……!」

バクラの手が太腿を撫で、下肢へ伸びていく。

「ッッ!!」

クラクラする意識の中で、その先にあるものを考えるとさすがに身体が強張った。

そこは誰にも触れられたことのない場所だった。

だが、こちらのそんな緊張などお構いなしに下着の上から大事なところをなぞったのは、誰でもない、バクラの指で。

もう一度ドクリ、と大きく跳ねる心臓と同時に、縋り付くような声を漏らした。

「、そこはっ……あっっ!!」

火照って熱くなったソコが、痛いくらいに引き攣っていた。

自分の身体に何が起こっているかは、さすがにわかっている。

しかし、未知の世界に対する怖さと、バクラに自分を晒す恥ずかしさが先に立って、隠すように膝を閉じようと試みる……のだが。

かまわず下着をずらし指が忍び入り、一瞬声を失うと、ひんやりとした白い指先は秘部をゆっくりとなぞり始めていた。

「ッッ、あ……っ!!!」

甘い痺れが生まれ、閉じようとした膝から力が抜けていく。


「ゃ……、やぁ……っ!!」

恐らく淫らに潤っているだろう身体の芯を、バクラの指が遠慮なく掻き回していく。

快感の為に引き攣った痛みが、指によってほぐされていった。

「ぁぁっ……、ッ……!!」

力の入らない膝を奮い立たせ、もう一度脚を閉じようと試みるが、すでにバクラの身体が脚の間に割り込んでいるためにそれはかなわなかったのだった。


「ハッ……、何無駄な抵抗してんだか知らねェが……
もうこんなになってんじゃねえか……!
そんなにオレ様が欲しかったのかよ……?」

「んぅ……」

バクラが呆れたような声で囁く。
冷たいだけだったはずのその声は、私の中で甘さを伴って拡散していった。


下肢を纏っていた下着を完全に脱がされ、普段人前には絶対に晒さない部分が顕わになる。

恥ずかしさを堪え、言葉を紡ぐ――


「はぁっ……、はぁっ……
た、確かに私……
欲にまみれてるけど……っ、
でも……っ

こういうの初めてだし……
恥ずかしいしちょっと怖いし……

どうしたらいいかわからなくて……、頭の中、ぐちゃぐちゃで、」

滲み出る涙と、震える声。

絡み合う視線。

感情の読めないバクラの瞳。

初めてこんなに近くで見つめた、闇を湛えたバクラの眼――

その眼が、わずかに揺らぐ。


「余計な事は考えんな……!
悪いようにはしねえからよ……

オレ様は意外と優しいんだぜ?」

そう言って、少しだけ口角を上げてみせる。


それは悪魔の囁きに似ていた。

からかうような、やけに丁寧な口調で吐き出された物言いには、既視感があった。

きっと彼はまた良からぬ事を企み、揺らがぬ邪悪な意思をそこに潜ませているに違いない。

でも。そんなバクラから『逃げない』と決めた時点で、私の選択肢は他に無いも同然だったのだ。


そして、この一連の行為は強引ではあるが、手つきはただ力任せの乱暴というわけではなかったし……、それがまた、ある種のギャップを感じさせ、私の心を堪らなくさせた。



……普段。

バクラを想像する時――
バクラに触れられたらどんな感じなんだろうと想像する時――

妄想の中のバクラはいつも乱暴で、私を力ずくで抑えつけ、服を引き裂き――
あるいは、千年リングの力で身体の自由を奪い、服を少しずつ切り裂いて、恐怖に引き攣る私の顔を見下して歓喜の高笑いを上げるような――
そんな存在だった。

だがしかし、こうして実際に触れられてみると、有無を言わさぬ力強さはあるものの、少なくとも痛みや堪え難い恐怖を感じるという事はないわけで。


そもそも。

一度は敵対した相手、それも邪悪で怖くて本来なら絶対心を許してはいけないような相手を、好きになった時点で。

これは自らで望んだ結果なのだと、そう考えたら。

熱に浮かされた身体に煽られるように、心も熱くなっていくのだった――


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bkm


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