■男子高校生のおやすみなさい

凛たち鮫柄学園水泳部は、いつもの様に放課後の練習を終え、寮に帰宅した。

夕飯を済まし、お風呂に入って、クラスメイトたちと談話室でたわいない話で盛り上がって…

凛と似鳥が部屋に戻ったのは消灯時間間際だった。

「ただいま」

凛が言う。部屋に戻りを告げる挨拶は、オーストラリアに留学した頃からの習慣だ。それは、帰国して新しい寮に入ってからも続いていた。

凛の後にいた似鳥も、ただいまを言い部屋に入る。

("おかえり"は心の中でだけで言う。)


「センパイ、今日もお疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ」

「…もぅ寝ますか?」

「…寝る…」

そう言って、凛はさっさと二段ベッドの下段に潜り込んだ。

通路に背中を向けて目を閉じる。ふとハルの姿が瞼に浮かんだ。

ーハル、俺がいない間、お前何してた…?ー

俺が知っているハルはもうどこへ行った…?
強い焦燥感。
行き先を失ってしまった思い……


ふと背中に気配感じ、凛は重い瞼を開いた。

似鳥だ。

後ろから腕を回され、抱きしめられる。

「…センパイ…何もしないから、ちょっとだけ、しばらくだけこうさせてください…」

何もしない…って…
本当は何かする気だったんだろ…


凛は暫くじっと似鳥の熱を、背中越しに感じていた。

ー暖かい……
なんだか温水プールに浮かんでるみたいだー

凛がそう思うと、途端に眠気が襲ってきた。

背中にくっついている似鳥と言えば、少し前からピクリとも動かない。
体を起こし、後ろを見るとスースーと気持ち良さそうに寝息をたてる似鳥の顔が薄暗がりに見えた。

ー似鳥のヤツ、疲れてるんだな…。
lそういえば最近はスゲぇ練習がんばってるしな…ー

今日の部活での似鳥の姿を思いだし、凛はふっと笑った。

ー今日はこのままにしといてやるか…ー

凛は薄くなっていく意識の中で、似鳥の温かさだけを感じていた。

ー…おやすみ…ー

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