Dream | ナノ

Dream

ColdStar

似合いのふたり

元々のお調子者な性格から来るものなのだろうと想像はつくが、コウタはアネットやフェデリコに色々と大げさな噂を吹き込んで楽しんでいるらしい。
悪戯はたいがいにしろ、と注意したことはあるのだが、「自動販売機で俺の後ろから冷やしカレードリンクのボタンを押した藍音には言われたくない」と言われるとそれ以上反論ができなかったりするのだがまあそれは置いておくとして。
私をきらきらとした目で見つめるアネットはどうやらまたコウタに何やら変なことを吹き込まれた、らしい。

「あの、コウタ先輩から聞いたんですけど」
「どうせロクな内容じゃないだろう」

リンドウさんがウロヴォロスの腕触手を素手で引きちぎったと言う情報をアネットに吹き込んだ時には流石に嘘臭いと思われていたようだが、アネットのこの様子だと微妙に「間違っているわけではない」情報を聞かされているんだろうなあと推測はつく。
一体何を言われたのか、アネットの様子を見ながら考えているとアネットは目をきらきらさせたまま言葉を続けていた。

「あの、藍音先輩がハガンコンゴウの大群を独りでなぎ倒したとか」
「……ああ」
「それも、襲い来るハガンコンゴウを一刀の元に撫で斬りにしたとか!」
「……コウタは話を大げさにしすぎだから話6割位で聞いておいたほうがいい」

はあ、と大きく息を吐いてから私はアネットの肩に手を置いた。
私の反応を見て、流石にコウタの話が大げさすぎると分かったのだろう。アネットは少しガッカリしたような表情を浮かべていた――コウタはこんなくだらないことで後輩神機使いを残念がらせてどうするつもりだというのだろう。

「でも話6割ってことは本当の部分もあるってことですよね」
「大群じゃない、せいぜい4体だ。それも同時に襲ってきたわけじゃなく時間差で現れた。勿論一刀で撫で斬りなんてことができるわけがない。危険任務なので時間は普段よりも短くしか用意されていなかったがな」

私がコウタの話の誇張されていた部分を訂正してやると、アネットは暫く黙ったまま考え込んでいて……ふと、思いついたように顔を上げる。

「ええと、つまり藍音先輩は『ハガンコンゴウ4体を』、『危険任務なので短時間で』、『独りで』……倒した、ってことですよね」
「そうなるな」
「やっぱり凄いですよそれ!私にはとても真似できません!」

凄い、というほどのことなのだろうか。
先ほどまでと同じように目をキラキラさせたアネットに、私は思わず首を傾げていた。

「言うほど凄いことか?私でなくても、ソーマでもそのくらいのことは出来たと思うが」
「藍音先輩はソーマ先輩の近くにいるから自分やソーマ先輩がどれだけ凄いのか今ひとつ分かってないだけだと思いますよ」

しみじみと呟かれたアネットの言葉に、私はやはり首をひねることしか出来ないのだった。
自分ではそんなことは考えたこともない。勿論、入隊してからの期間を考えれば私の成し遂げたことは異例だとあちらこちらから言われはしているものの。

「私も藍音先輩みたいに、『自覚のない凄い人』になりたいです!」
「それは褒められているのか?」

駄目押しのようにアネットに言われた言葉に、私はやっぱりどこか釈然としないものを感じていた。

「勿論ですよ。ご自分では自覚のないまま凄いことを沢山成し遂げて、それを見守るように最強のパートナーが傍にいて。藍音先輩は私達神機使いの憧れなんです」
「そう、か。本当に自覚がなかった……だが」

私はそこで言葉を切る。アネットが私を凄いと褒めるよりもずっと、私の心に響いた言葉を確かめるように一度目を閉じて……それからゆっくりと、瞼と共に口を開いた。

「私は私自身よりも、ソーマが認められていることのほうが嬉しいと思う」
「藍音先輩は勿論ですけど、ソーマ先輩のことを認めていない人なんてアナグラにはいないですよ」
「そうだな……今は確かにそうだ」

かつて、ソーマが人から避けられていたときのことをふと思い出しわずかに口の端をあげる。
私自身が褒めそやされるよりも、ソーマがこうして認められることのほうがずっと嬉しいだなんて、自分でも考えたこともなかった。

「……そんなソーマが傍にいるからこそ負けられないと思うんだがな」
「パートナーでありライバルでもある、ってことですね。いいなあ……そういう関係、ちょっと憧れちゃいます」

どこかうっとりとした視線をこちらに向けるアネットに、私は僅かに笑みだけを返した。
自分が、ソーマが、憧れの対象として見られているのだということ。それがどれだけ誇らしいことなのか、それを確かめるように。

 Return 



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -