Dream | ナノ

Dream

ColdStar

輝ける星の向こう

いつものアナグラ、いつものエントランス。
普段であればそこにいるのはアラガミを討伐せんと神機を手にした神機使い達ばかりなのだが……その日はどうにも、様子が普段と異なっていた。

「うっわ、ソーマサンタ服似合わないなー」
「てめえだって似合ってねえだろうが」

真っ赤なサンタ服を身にまとい、揃えたように赤い帽子を被ったコウタとソーマは互いにそんなことを言い合っている。その手には彼らが普段手にしている神機の変わりに、真っ白な袋が握られていた。

「サンタクロースは白人だったと言う説がありますからね。そういう意味では、ブレンダン先輩やカレル先輩が一番似合うのも当然かもしれません」
「似合った所でそれが金に繋がるわけじゃないだろ。ボランティアとか一番苦手なんだよ、俺」

フェデリコがフォローのように呟いた言葉を斬って捨て、カレルは大きくため息をついた。その、いかにもカレルらしい言葉にその場にいたもの全てが思わず笑いを浮かべていた。

「けど、こういう機会があって……内部居住区も外部居住区も限定しないで、この近くに住んでる子供たちにプレゼントを用意するなんてなかなか気の利いた企画じゃないか」
「支部長代理肝いりの企画だからな。前の支部長ならこんなことは……っと」

ブレンダンの言葉に何気なく返しかけたタツミはそこで言葉を止め、視線だけをちらりとソーマの方へと送る。前支部長とソーマが親子であることも、ソーマが進んで明かしたわけではないがいつの間にやらアナグラにその事実を知るものが随分と増えていて……タツミはともすれば、父である前の支部長を腐すような話題をソーマが嫌がるのではないかと案じたのかもしれない。
だが、そんなタツミの様子など気付いていないようにソーマはエレベーターの方へと視線を送る。そう、今この場にいるのは男性陣だけなのだ。
ソーマがその視線の先に待っているのは、そしてソーマの視線に釣られたようにエレベーターのほうを見た男性陣が待っているのが何なのか。皆、互いにそれが分かっているからこそ何も言わない。
言葉がないまま僅かに時間が経ち、やがて開いたエレベーターの扉。そこにいたのは……赤いノースリーブにミニスカート、それに真っ白なファーをあしらった女性用のサンタ服を身に纏ったカノンとジーナ。

「遅くなってごめんなさい!」
「他のメンバーももうすぐ降りてくるからもう暫く待っててもらえるかしら」
「へえ……」

エレベーターを降りてきた2人の姿に感嘆のため息を漏らしたのはシュン。
普段の彼女たちとは違う、どちらかと言えば仮装に近い服装とは言え地がいいのだからそこに彼女たちの普段は見せない魅力が現れるのも当然と言えばそうなのかもしれなかった。
そして、ジーナの言葉の通りそこからすぐに再びエレベーターの扉が開き、今度姿を見せたのはアネットとアリサ。

「遅くなって本当にごめんなさい。サクヤさんと藍音さんもすぐ来ますから、もうちょっと待っててくださいね」

ごめんなさい、の言葉と共にぺこりと頭を下げたアリサの白い肌に、赤いサンタ服がよく映えている。その一歩後ろに控えていたアネットは、既に集まっていた男性陣にぐるりと視線を送るとにっこりと笑みを浮かべてみせた。

「……にしても、皆さんお似合いですよ」

その言葉は、フェデリコ以外の人間から見れば自分が後輩だからと言う立場を思って為されたものなのか、それとも彼女の本心か。
浮かんだ笑顔だけを見ていれば嘘をついているようには見えなかったが、それが逆に照れくさかったのだろうか。シュンが混ぜ返すようにぽつりと呟いていた。

「そうかぁ?ソーマとかどう見ても似合ってねーじゃん」
「てめえだって似たようなもんだろうが」
「まあまあ、落ち着けお前ら」

テーブルに置かれた灰皿の前で煙草を吸いながらリンドウが僅かに微笑む。ほぼ仮装に近い姿とは言え、どこか妙な風格を漂わせているのが奇妙なところだ。
ともあれ、あと残るは藍音とサクヤのみ。2人がやってくるのを待つ全員の視線が、先ほどアリサとアネットを送り出したばかりのエレベーターの方へと注がれる……そして、小さな音と共に扉が開くと、そこには……彼らが待っていた2人の姿が納められていた、わけで。

「あれ、藍音は皆が着てるのとちょっと違うんだな」

その姿を見て取ったコウタがぽつりと呟き、答えるように藍音は大きく頷く。その落ち着いた表情からは、誰かからそのことを尋ねられることをなんとなく想像していたようにも見えた。

「ああ、手持ちのコートでカラーリングがサンタ服に近いものがあったからそちらを着る事にした」

普段から彼女が身に着けているコートと同じデザインラインながら赤い生地に白いファーをあしらったそれは確かにサンタ衣装と言い張ってしまえばそうも見えるものだった。
そもそもが、彼女が纏ったコートは開発部の作るカタログには確かに「季節外れのサンタクロースのコート」と書いてある訳だがそれはさておくとして。

「私達が最後みたいね。待たせちゃったみたいでごめんなさい。じゃあ、そろそろ行きましょうか」

サクヤの言葉に、全員が笑顔で頷く。
こんな時代だからこそ、生きるだけでも苦労する時代だからこそほんの僅かでも人に笑顔を。神機使いとして物理的に守るだけでなく、生きることにも苦しみの伴うこの世界でその心をも守ることができたら。
きっと彼らのうちの殆どの者がそんなことを考えながら、傍らに置かれた白い袋を手にエレベーターへと乗り込んでいった。

「博士も人が悪いなあ、サプライズパーティのために皆をアナグラから追い出すのが本当の目的なんでしょ?」
「そりゃあ、彼らがいたんじゃあ満足に準備もできないからね。さて、それじゃあとはエントランスの飾りつけだけかな」
「ゲンさんも後から手伝ってくれるそうなのでそんなに時間はかからないと思いますけどね」

彼らを見送った後のエントランスでリッカとサカキ、それにヒバリがそんな会話をしている……ヒバリの足元、受付カウンターの中にはエントランスを飾る為に用意されたクリスマスオブジェが沢山置かれていたりして。

「皆さんが戦いの中で生きていることは知っています。でも、戦いを終えた後に見せる笑顔とはまた違う笑顔を見てみたい……私だけじゃない、ですよね」
「皆が戦わなくなったら私の仕事はなくなっちゃうんだけどね。でも、時にはいいかな」

オブジェが詰め込まれた箱を手に受付カウンターから出てきたヒバリとリッカのそんな会話を、サカキは笑みを浮かべて見守っているだけ――
かつて神が生まれたと呼ばれる日を、祈る神を持たない彼らが祝うのはなんとも妙な話で。
だがそれでも、そこに間違いなく生まれるであろう幸せを、彼らが心の中で願う先はなにも神でなくともいいだろう。
そんな言い訳と共に飾り付けられていくアナグラに、一番に帰って来る神機使いは誰なのだろう。そんなことを語り合いながら、少しずつクリスマスオブジェに……「幸せ」に満たされていくアナグラを見守るスターゲイザーの心中を推し量れるものなど、その場に存在しようはずがなかった。

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