Dream | ナノ

Dream

ColdStar

もしものはなし

「もしも子供が出来たらレンって名づけようと思ってるんだ」

リンドウさんが何かを思うようにぽつりとそんなことを呟き、サクヤさんはまたその話かとでも言うように僅かに笑みを浮かべてみせる。
だが、その笑みを見ていれば分かる。それがどういう意味なのか――その名が秘めた意味を、リンドウさんがきちんとサクヤさんに話しているのだということが。

「リンドウさんって意外とロマンチストなんですね。気持ちは分かりますが」
「意外と、は余計だ」

苦笑いを浮かべたリンドウさんの言葉には特に応えなかったが、その場に沈黙が訪れるより先に確かめるようにソーマが口を開く。

「レン、って確か……リンドウの神機の精神体、だったか」
「ああ。残念なことにリンドウさんと、リンドウさんの神機に侵喰された私にしかその姿は見えなかったらしいが」
「本当に残念だわ。私も会ってみたかったな、リンドウの神機に」

何かを思うように遠くへ視線を送るサクヤさんがそう言うのも無理はないだろう。私自身、レンの姿を視認できていたのがあの時のアナグラには私だけだったということを知った時にはそれを僅かに残念に思ったものだ。レンにはたびたび危ない所を助けられているのだから、皆にも会って欲しかったと思っていたのにそれは叶わないのだから。
そんなことを考えて、ふと頭の中に過ぎるひとつの考え。思いついた次の瞬間にはいつものようにそれを口にしていた。

「そう言えばレンの戦い方はどことなくサクヤさんに似てましたね。スナイパーを使ってましたし、危なくなったら的確に回復弾を撃ってくれて。新型の神機を持ってはいましたが殆ど剣を使ってる所を見たことないですし」
「その話は俺も初耳だな。俺は結局『あの姿』のレンとは一緒に戦えずじまいだからなあ」
「それでも、リンドウにとっては大事な戦友だものね……本当に、会ってみたかったわ」
「案外、お2人のお子さんがあのレンにそっくりに成長するかもしれませんよ」

そんな風に冗談めかして話しているうちにふと、リンドウさんが何かを思い立ったように言葉を繋ぎ始める。

「そういえば、お前たちはどうするんだ」
「どうするって、何が」
「まあ、今はまだソーマも藍音も10代だし結婚なんて考えられんだろうが将来的にそうなったとして、子供が出来たらこんな名前を付けたいとか」

リンドウさんに言われて、私とソーマは思わず顔を見合わせる。
確かにリンドウさんの言うとおり、私もソーマもまだ10代だし現状で結婚なんて考えたことはなかったが将来的にそうなれば、なんてことはぼんやりと話していたことはある。
だがどちらかと言えばそれは夢物語に近いもので、そこまで具体的な話をしたことなんてあるはずがない。

「そんなこと、考えたことがねえ」
「今、ふと思いついたことはあるんだが流石にそれはまずいだろうしな」
「思いついたこと?」
「女の子ならこの名前がいいのかな、って言うのがひとつ、な。だが、それだと色々ややこしくもなりそうだし」

私の言葉で、ソーマとサクヤさんは私が思いついた名前をわかってくれたのだろう。ソーマは難しい表情をして視線を虚空に向け――サクヤさんは僅かに笑みを浮かべた。
リンドウさんだけが状況が分からないのか首をひねっているところに、サクヤさんが小さくその答えを口にしていた。

「『シオ』……でしょ?」

サクヤさんの言葉に頷きを返すと、リンドウさんも得心したように大きく頷いていた。そう言えば、サクヤさんからシオの話を聞いたとリンドウさんが言っていた、気がする。
そう、私もソーマもいつか……月へ旅立ったシオともう一度会える日が来ると信じている。その時に同じ名前の人間がもうひとりいたのではややこしくて仕方がない。
だから流石にまずい、と私が言ったその気持ちをソーマもサクヤさんも汲んでくれているのだということがなんとなく嬉しく感じられていた。

「まあ、その時に考えればいいだろ。今からごちゃごちゃ考えても仕方ねえ」

話を打ち切るようにあっさりと言い切ったソーマの言葉には短くそうだな、なんて返して、そこで話は終わりかと思っていた。
だが、ぽつりと……そしてしみじみと呟かれたリンドウさんの言葉に、ふと我に返る――

「その言い方だと、少なくともソーマはいずれ『その時』がくると思ってるんだな」

その言葉にソーマが答えを返すことはなかった。
言われてみればその通りで、ソーマは当たり前のように私との未来がそこにあると信じているということで……
その事実に気付きはしたものの、感じたことを言葉にすることは出来ず……結局私が取った行動はソーマと同じ、黙ることだけだった。

ただ、そこに……ソーマが思い描く「未来」に私の姿が当たり前に存在している、たったそれだけのことではあったけれど。
それは言葉には出来ないけれどとても幸せなことであるように感じられて……私は、その幸せを噛み締めるように、言葉にはしないままゆっくりと目を閉じた。

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