Dream | ナノ

Dream

ColdStar

忘却の彼方の

「よう……前、いいか」

食堂でひとりで食事をしているとそんな風に声をかけられ、顔を上げるとそこにいたのはシュン。
辺りを見渡しはするものの、今日はどういう理由でか随分と込み合っていて確かに彼が座れそうな場所といえば私の正面、あとは隣くらいしかない。

「他に場所がないんだから断る必要はない」
「……黙って座って文句言われたら腹立つじゃん」

口ではそんなことを言いながら、どこか安心したような表情を浮かべてシュンは私の正面に座り、手にしていたプレートを目の前に置いた。
私は特に意に介するでもなくそのまま食事を続けているのだが、ふと気付くと……シュンがちらちらと私の方を窺っていた。

「何か言いたいことでもあるのか?」
「ばっ……べ、別にそういうんじゃねえよ」

フォークを手にしたまま気まずそうに黙り込んだシュンだったが、ふと何かを思い出したようにぽつりと一言呟いていた。

「……俺、藍音に謝ったほうがいいのかなと思って」
「私は別にあんたに謝られるようなことをされた覚えはないが」
「ちげーよ、俺……お前が入隊したばっかの頃さ、お前に噂話だって言って……ソーマが死神だとか、その」

憮然としたようにも見えてどこか申し訳なさそうなシュンの表情。その言葉が続くのを無意識のうちに待っていた私だったが……シュンの言葉は更に、途切れ途切れながらも続いていく。

「……あの時はほんとにソーマがそういう風に見えてたし、俺が勝手にソーマを目の敵にしてたのもあってすげー軽い気持ちで言ったことだったんだけど……その後ソーマと藍音が付き合い始めるなんて思ってなかったし、もしかしたらそのことを藍音が気にしてんじゃねえかなとか……思って……」

シュンの言葉に私は一瞬だけ首を捻り……記憶の糸を手繰り寄せる。
やがて、私の記憶の中の出来事とシュンの言葉がひとつに繋がり、無意識のうちにああ、と小さく声を上げていた。

「あれ……シュンだったのか」
「……は?」
「いや、誰かがソーマに対してそんな噂があるって言っていた記憶はあったんだが誰が言ったのかは……今言われるまであんただって事を忘れていた」

そう言えば確かに、ソーマと出会って間もない頃にそんな噂を耳にしたことがあった。
多分私がまだ、彼が同い年だということも知らず変に気を遣って「ソーマさん」なんて呼んでいた頃のこと。
あの頃はまだ神機使いとして日々生きていくのが精一杯で、そんな噂を聞きはしたもののすっかり忘れ果てていた。当然、それを言ったのが誰だったのかなんて覚えているはずもなく。

「……っんだよそれ!俺、結構気にしてたんだぞ?もしあれ言った段階で藍音がソーマのこと好きだったりしたら嫌な思いさせたんじゃねーかなとか、もしかして俺あれが原因で藍音に嫌われたりしたんじゃとか!」
「その段階ではソーマに対してそういう感情を抱いていたわけじゃないし、今現在私に対して謝る気持ちがあるってことはシュンはもうソーマに対して悪い感情は持っていないって事だろう?なら、私がシュンを嫌う理由はない」

あっさりと言い切ってやると、シュンは……どこか拗ねたように私から視線を反らした。
その表情の意味が分からずそちらを見ていると、シュンがぽつりと一言。

「俺、勝てねえよ。藍音にも、ソーマにも」

その言葉の意味が分からないまま私は首を捻る……丁度そのとき、もうひとつの空席だった私の隣に座る人影がひとつ。それが誰なのか、分からないほど私だって馬鹿なわけじゃない。

「今日は遅かったんだな、ソーマ」
「ああ、事前情報になかったアラガミが出てきやがってな……想像以上に時間食った」

短く答えるとそのまますぐにフォークを手に取り食事を始めたソーマをちらりとだけ視線で追い、すぐに視線を目の前に……シュンの方に戻す。

「で、何の話だったか」
「もういいっつーの。見せ付けてくれるよな、全く」

はぁ、と大きく息を吐いたシュンの言いたいことが分からず私は首を捻る……が、それに対してシュンがそれ以上何かを言うことはない。
そして、何も言わないシュンのかわりに……ソーマが、一言。

「見せ付けて何が悪い」
「……嫌いじゃないけど、俺ソーマのそう言うとこ絶対好きになれそうにねえや」
「お前に好きになってもらおうなんてハナっから思っちゃいねえ」

ふん、と鼻を鳴らして食事に戻るソーマに、シュンは小さく舌打ちしてみせた。
ソーマは別段気にかけている様子はないしシュンもそれ以上何も言わないので結局その話はそこで終わってしまった。
正直に言えば……流れる空気があまり穏やかでないのは気にかからないわけではなかったが……私がどうこう言える問題ではなさそう、だったし。

「嫌われてないならそれだけでいいんだよ、もう」

シュンが呟いた言葉の意味は、結局私には分からないまま……だった、けれど。

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