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ColdStar

反省会

ミッションを終え、アナグラに帰投すればまずは受付でヒバリに帰還報告をする。その後の面々は普段であればそれぞれに次の作戦への準備を進めたり自由時間を楽しんでいたりするのだが……その日の第一部隊はどこか様子が異なっていた。

「……まず、ハンニバルは逆鱗が崩壊すると攻撃が激化するのでなるべく逆鱗を避けて攻撃するようにと伝えてあったはずだが……早々に逆鱗を破壊したのは誰だ」

ソファに座り腕を組んだ藍音が、自分の周囲にいるソーマ、アリサ、コウタの三人に順番に視線を送る。
三人も互いに……藍音も含めてその場にいる全員が互いの顔に向けて様子を窺うように視線を送りあっている。

「少なくとも藍音さんじゃないのは確かですよね、藍音さんは執拗に頭に斬りかかってましたから」
「ソーマじゃないか?ソーマも藍音と一緒に頭狙ってたけどチャージクラッシュのときに勢い余って逆鱗まで、とか」

アリサの発言を受けて思いついたようにコウタが為した呟きに、言われたソーマは不愉快そうに表情を変える。確証もないのに犯人扱いされたのでは気分が良くないのも当然かもしれなかったが。

「俺がそんなヘマをするわけがないだろ」
「そうは言うがソーマには前科があるだろう、ハンニバルの逆鱗をチャージクラッシュで潰したことについては」
「あれは……あの後ちゃんと謝ったし詫び代わりに飯も奢っただろうが。大体お前もそれ言うなら頭狙って回転斬りを仕掛けて逆鱗壊した事があったじゃねえか」
「だから今日はその失敗を踏まえたうえで敢えて地上戦を仕掛けていたんだ。大体その件についてはその日の夜のうちに……」

反省会のはずが、藍音とソーマのやりとりはどことなく痴話喧嘩の様相を呈してきている。
まあまあ、とコウタが割って入ったところでソーマは一度ふんと鼻を鳴らし、思い出したようにぽつりと呟いた。

「大体俺は見たぞ、頭狙ってた弾丸が狙い逸れて逆鱗に当たってたの。撃ったのがコウタかアリサかは知らんが」
「ハンニバルは動きが早いから頭狙っててもその隙に避けられて逆鱗に当たったりするんだよ、なあ」
「そうなんですよね……だから、そう言われてもそれが私だったのかコウタだったのかは正直自分でも分かりません」

これが擦り付け合いと言うわけではなく本当に誰が破壊したか分からないのが困りもの。
逆鱗の破壊を遅らせることが出来ればもう少し楽に始末できたかもしれないと言う頭が全員にあるからこそこうやって……次に向けて前向きに対策を練ろうと話し合いの場が持たれたわけではあるが、実際に話し合ってみたところで答えは分からないのだった。
ああでもないこうでもない、そもそも逆鱗が壊れた瞬間を誰かが見ていたのか、いや誰も見ていない……となるから話し合いは紛糾する一方なのであった。

「逆鱗の件もそうだがもうひとつ、俺からも聞きたいことがある。頭ぶっ潰した後お前ら3人とも少し距離取って射撃してただろ。あの時誰かに誤射されたんだが誤射したの誰だ」

ソーマの言葉に、ソーマ以外の3人が互いに顔を見合わせる。

「私は今日はレーザー弾と普通の弾丸を両方使ったからレーザー弾だったら私だ」
「レーザー弾だったら藍音なのは分かるから敢えて聞いてねえ。ただの弾丸だったから聞いてんだろうが」

ソーマの言葉に、戦況を思い出そうと藍音が僅かに視線を上に送り、そしてすぐにソーマの方へと視線を戻す。

「そのときソーマはどの位置にいた?」
「頭が壊れて柔らかくなってたからそこを狙ってた」
「だとしたら……やっぱり私か、でなければアリサだな。コウタは尻尾の側から狙っていたはずだから」

藍音が断言した事で、コウタが胸を撫で下ろす。流石に自分がやったのかもしれないと言う状況はあまり歓迎できるものではないのだろう。
ただ、答えが1/2に絞られたとは言え……互いに顔を見合わせた藍音とアリサの表情を見ていれば2人とも身に覚えがないのだろうと分かろうというもので。

「分からないからそれはもう私だったということにしておこう。すまなかった、ソーマ」
「いや、それは……私だったかも知れないのに藍音さんが謝る事はないです。ごめんなさいソーマ」
「……両方に謝られても俺も困る」

本当に困ったようにソーマは天井を見上げ、大きく息を吐いた。

「だが私かもしれないのにアリサに罪を擦り付けるわけには」
「そんな、私だって藍音さんに押し付けて平気な顔なんてしていられませんよ」
「……じゃあもういい、コウタだったと思うことにする」
「いやおかしいだろ!俺尻尾の側から狙ってたからソーマには当てようがないってさっき藍音言ってたよな!?」

ぶんぶんと慌てたように首を振るコウタだったが、何かを思い出したようにはっと目を見開く。
コウタのその表情の変化に流石に気付いたのであろう、3人は同時にコウタの方へと視線を送った。

「って言うか俺も言おうと思ってたことあるんだけど!藍音だかアリサだか知らないけど、アラガミバレット受け渡すんじゃなくて俺に直撃させただろ!あれどっちだよ!」
「それはコウタの勘違いですよ、私と藍音さんが同時に受け渡し弾を撃ってその瞬間にハンニバルが火の玉をコウタに飛ばしただけです」
「へ?……そうなの?」

アリサの指摘に毒気を抜かれたような表情を浮かべてコウタは2人を交互に見る。
藍音は特に何を言うでもなくただアリサの言葉に頷いただけ。ふん、とソーマが小さく鼻で笑ったのはコウタの勘違いに対してのものなのか、それとも……それはきっと、ソーマ本人にしか分からない。

「なんだお前ら、随分真面目な顔して話し合ってるな」

そこに不意に、リンドウとサクヤが揃って姿を見せる。
リンドウの声に顔を上げた藍音は、小さく息を吐くとその場に現れた2人の方へと眼差しを向ける。

「ちょっと今日のミッションがお世辞にも褒められた内容ではなかったので反省会を」
「反省会をした所で、結局何が原因で『褒められた内容ではなかった』のかは分からないままでしたけどね」

はぁ、とため息をついたアリサを見て、サクヤは小さく声を立てて笑う。

「……リンドウはそんな真面目な話し合いなんてしたことなかったわよね」
「ま、今お前らが出した結論と一緒だ。話し合いをした所で答えが見えるわけもないからな」
「ええ、実際にやってみて良く分かりました」

肩を落として呟く藍音の姿を見て、リンドウとサクヤは顔を見合わせて互いにくすくすと笑みを零しあう。
藍音が真面目な性格なのは良く分かってはいるが、どこか「抜けている」印象を与えるのはこういう部分なのだろうか、なんてことを考えていたりして。

「だが、話し合いの中で問題点は見えた。まず、ソーマはある程度ダメージを与えるまではハンニバルの頭及び篭手を狙ってのチャージクラッシュ禁止、私は空中戦を仕掛けない。私とアリサ、及びコウタは遠距離攻撃は射線上に味方がいないか念入りに注意。また、自分に当たったのがアラガミバレットなのかアラガミ本体からの攻撃なのかはきちんと見極める」
「最後はコウタの勘違いなんですから要らないと思いますよ」

締める様にまとめた藍音の言葉に、コウタは真面目な顔で、ソーマは若干不満げな表情で頷き――アリサだけが小さく首を捻りながらぽつりと付け加える。
そのやり取りを聞いていたサクヤが口の端だけに僅かに笑みを浮かべながら、隣に立つリンドウの肩をぽんと叩いた。

「それと、射線上に味方がいないか注意するのはリンドウもね。あんまり言いたくなかったけど、リンドウも結構誤射多いわよ」
「あー、まだ銃形態の扱いに慣れてねえんだ。ま、そのうち慣れるだろ」

バツが悪そうに頭を掻いたリンドウの表情を見ていて、一行の間に笑いが生まれる。
なんだかんだと言っていても、こうやって最後には和やかな空気になるのも第一部隊と、そしてリンドウとの間にある信頼関係の証なのかもしれない。

「さて、結論が出たところで……解散とするか。今日は夕食の準備をしてないから何か食べに行くぞ、ソーマ」
「ああ、そうだな」
「あ、俺も一緒に行きたい!」
「コウタ、そこは空気読みましょうよ……」
「よし、じゃあコウタは俺が何か奢ってやろうか」
「リンドウもそういうところ、結構お人よしよね」

賑やかにそんな話をしながら、第一部隊の面々にリンドウを加えた一行はそのままエントランスから去っていった。
その後のエントランスに、どことなく平和な空気だけを残して。

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