Dream | ナノ

Dream

ColdStar

崩壊の序曲

いつもいつも私やソーマが集めてくる素材ばかりではシオも満足できないだろう。そんな、サカキ博士の提案によって私とサクヤさん、それにアリサの3人でシオを連れて――向かった先は、愚者の空母。
そう、そこまでは良かったのだ。
いつものようにアラガミを――今までに交戦例の少ないハガンコンゴウではあったが無事に撃破し、シオに食事をさせるところまでは何も問題がなかった。

……はず、だったのに。

シオに食事をさせながら海を、その向こうにあるエイジス島を見つめながらサクヤさんがぼんやりと大きいよね、なんて呟く――その裏に、アーク計画の事が……リンドウさんがエイジスへ潜入しようとしていた事があるのは疑いようがないだろう。
だが、忘れようと言われている、その上でサクヤさんにその話を振る事なんて出来るはずがない。一体何を言えばいいのかすら分からないままサクヤさんを見ていた私の視界の端で、シオがゆらりと海の方へ向かって足を進める。

「シオ?どうしたの?」
「……ヨンデル……」

シオの足は、崩れ落ちた空母のそばまで向かってすぐに止まる。あと一歩足を踏み出したら海に落ちてしまいそうな場所で、エイジスを見つめながらシオは口の端を上げた。
身体中に光の紋様を浮かび上がらせ、口の端を上げたシオは私のよく知る彼女の姿とはかけ離れていた。

「シオ……何があった、シオ」
「タベタイ、タベタイッテ……ヨンデルヨ――オイシソウ」

いつもとは違う様子のままのシオに向かって私が駆け出したのと、シオが海に飛び込んだのがほぼ同時。
さっきまでシオがいた場所にたどり着いてすぐに地面に膝をつき身を乗り出して海を見下ろしたものの、もうそこにはシオが飛び込んだ痕跡すら残されてはおらず……夕陽に朱く染められた水面がゆらゆらと揺らめいているだけだった。
立ち上がった私はポケットから通信機を取り出すとすぐに連絡を取る――相手は、ソーマ。
暫し呼び出し音が鳴った後、通信が繋がって向こうからはソーマのいつもの愛想のない声が聞こえてくる。

『……誰だ』
「私だ、藍音だ。落ち着いて聞いてくれ……シオが、失踪した」
『……あの馬鹿。今度は何が気に食わなかったんだ』

一瞬の間の裏に、言葉では読み取れないソーマの動揺が隠されている気がして……このことを真っ先にソーマに伝えたのは間違いだったかとほんの僅か後悔する。
だが、私がそうであるように――いや、私以上にソーマがシオのことを気にかけているのは紛れもない事実。そのソーマがこのことを知らないなんて、そんなことが許されるはずがない。
ただ……今度は、と言う言葉の裏にあるのはきっと、先般シオが服を着せられるのを嫌がってアナグラを飛び出した時のことを指しているのだろう。あの時だって、皆で探してすぐにシオを連れ戻す事が出来た。だからだろうか、ソーマはまだどこか事態を軽く見ているように……その言葉尻からは感じられていた。だが。

「……あの時みたいな簡単な話じゃないかもしれないんだ。ひとまず、サカキ博士に報告をしなくちゃいけないし私たちは今からアナグラに戻る。ここじゃ誰が聞いてるか分からないから、アナグラに戻ってからまた詳しいことは説明する」

それだけを伝えて、私は呆然とこちらを見ているサクヤさんとアリサへと視線を送る。
目が合うや否や、サクヤさんはひとつ頷いて私を見た。既に迎えは呼んでくれていると言う事だろう。

「ありがとうございます、サクヤさん」
「……いいえ。でも気は抜けないわ、はやく博士に報告しないと」
「それにしても私がついていながら……こんな」

無意識のうちに唇を噛んでいた私の肩に、いつの間に近づいてきていたのだろうか――アリサの手が触れる。

「藍音さんが悪いんじゃありません。それに……私たちも、シオちゃんを止められなかったのは同じですから」
「いずれにせよ、早急にアナグラに帰って博士に報告して……ソーマと、それとコウタにもこのことを伝えないと」
「そうだな……本当に、一体どうしたって言うんだ、シオ」

ようやく顔を上げる事が出来た私の目に映るのは、遠く――海の向こうから私たちを見ているようにすら感じるエイジス島の姿。
――何故だろう。私の目に映るエイジス島はとても不吉な存在であるかのように思えていた。
人類最後の希望のはずなのに。この間から私の中に渦巻き続けている奇妙な違和感がここへきて私の心を強く蝕んでいくような――
そんな事を考えているうちに、遠くから聞こえてくるエンジン音。アナグラからの迎えがやってきたのだろう、私達はすぐに音のした方へ……軍用車のやってきた方へと足を向けた。

事態を報告すると、サカキ博士は私達だけでも無事でよかったとねぎらいの言葉を投げかけ、そのまま私たちには戻って休むようにと声をかけてくれた。
とは言えすぐに部屋に帰る気にもなれず、ベテラン区画に戻った私はソーマの部屋の扉を叩く――反応は、ない。
任務にでも出かけているのだろうか。それとも部屋にいても何かの理由で部屋から出てこられないのだろうか。
だが反応がない以上いつまでもここにいても仕方がない。私は自室に戻ると、再びソーマの通信機を鳴らしてみる――だが、暫く待った所で今度は応答がなかった。
もしかしたら任務中なのだろうか。だとしたら帰ってきた頃に連絡があるだろう。
私は通信機をベッドサイドに置くとそのままごろりと大の字になってベッドに横たわった。
見慣れたはずの天井でさえ、なんだかとても遠く感じる。シオに一体何が起こって、一体彼女はどこへ行ってしまったというのだろう――
そして、私の中で澱のようにぐるぐると留まり続けている不吉な予感と、私を取り巻く状況に対しての違和感――それはいつまで経っても消えることはないまま。

「……シオ……ソーマ」

無意識のうちにその名を口にする事しか私にはできなかった。
もう一度、通信機を手にとって鳴らしてみても結局ソーマが出ることはない。
もしかして、先ほどの通信だけでソーマは単独でシオを探しに出たりしているのだろうか?そんな事を考えはしたものの……連絡が取れない以上、私にこれ以上できることなんてあるわけがなくて。

何かが壊れていくような、不思議な感覚。
違和感と奇妙な感覚から逃れる為に私はゆっくりと目を閉ざす――何も見えなくなったところで、逃げられない事なんて十分に分かっているはずだったのに。

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