Dream | ナノ

Dream

ColdStar

missing

サクヤさんの部屋を出てアリサと別れた私はそのまま、すぐ近くの自室へと入ってターミナルを立ち上げた。
ふと見ればタツミにカノン、それにシュンから私宛にメールが来ていた……いずれも、リンドウさんの腕輪が見つかった事に関係したもの。
よくやったと言ってくれたタツミ、仇を取ったことの礼をしたためてきたカノン、リンドウさんがもういないんだと言う事を確かめるようなシュン……それぞれの心にいたリンドウさんの存在がそれだけ大きいものだったのだと言う事が、短い文面の間からにじみ出ていた。
そしてそれは何も彼らだけではない――私だって、そうだ。
アーク計画の事が気にかからないわけではないし、きっとサクヤさんは本当にこれで手を引くつもりなんてない事だってなんとなくは分かっている。
それに……なんとなく、さっきアーク計画のことを聞いたときに私の胸の中に浮かんだもやもやとした思いつき。
エイジス計画を隠れ蓑とした計画。その裏に、極東支部の……それも、上層部の人間が関与している。
この思い付きが正しいのだとしたら、もしかしたら……「リンドウさんの仇」は本当はディアウス・ピターなんかじゃないのかもしれない。
そうだとすればリンドウさんの捜索が早々に打ち切られた理由だってなんとなく納得が出来る――
そして、この前から私の中にあった違和感の正体がそれだとしたら、私は何かとんでもない思い違いをしているのかもしれない。
だが、その思いつきは私の中で実態がつかめないもやもやとした形のまま留まり続けているだけ。そこから具体的に何かを思いつくわけじゃない。
独りでいても煮詰まる一方、抜け出せそうにない思考の迷宮。
……私はそのままターミナルを落とし、自室を後にした。
だからと言って何ができると言うわけじゃない。きっとサクヤさんの部屋を訪れた所でサクヤさんは私にはこれ以上何も言ってくれないのだろうし、だからと言って自力でアーク計画の事を、その裏にあるものを探り出すなんてことは出来ようはずがない。
そこで不意に私の目に止まったのはサクヤさんの部屋の向かい、ソーマの部屋の扉。
いないかもしれないし、いたとしても返事はないかもしれない。それでも僅かな期待を込めて軽くノックしてみると、中からは珍しく――誰だ、と問い返す声が聞こえてきた。

「私だ、ソーマ」
「藍音か……入れよ」

短く告げられた言葉と共に扉が開く――初めて目にしたソーマの部屋は随分と荒れ果てていた。
好きな風景を映し出すことが出来るディスプレイは割れて何も映されてはいないし、ターミナルのディスプレイだって割れてしまっている。
ベッドの上にほったらかしにされた武装、この部屋でソーマは一体どうやって身を休めていると言うのだろうか。そんな余計な事が気にかかってしまうが――そんな事をしにここにやってきたわけではない。

「……どうせリンドウの事だろ」
「分かったか、やっぱり」
「俺も多分お前と同じような事考えてるからだろうな」

そこで一度言葉を切ったソーマは、僅かに息を吸ってから言い放つ――

「リンドウの腕輪が見つかった時に不思議な感じがした……物事が確定したような、取り返しのつかないような」
「私もだ。もうリンドウさんが帰って来ることはないんだな、って」
「その割には冷静だな。もっと取り乱すかと思ってたが」
「私が取り乱した所でリンドウさんが帰って来るわけじゃないだろう。それに……サクヤさんやアリサを見ていたら、せめて私だけはしっかりしていないとと思ってしまうとどうしても……な。冷静な振りをしているだけだと言われたら否定はしない」

私の言葉に、ソーマは小さく鼻を鳴らす。
その視線が秘めた感情は私には読み取れない。ただ言葉にするとしたら何か……可哀想なものでも見るような、そんな風に見えたのは私の気のせいだったのだろうか。

「何度も言わなくても分かってると思うが、リンドウがもう帰って来ないのが確定したからってお前はリンドウになろうとはするな」
「分かってる」

それは奇しくも、自分で「あの時」に思いついたのと同じ事。
自分ではそんなつもりはなかったが無意識に目指していた場所には、どうしても私では届かない――悲嘆にくれるサクヤさんやアリサにかけられる言葉を見つけることさえ出来なかった私では、どうしても。

「あの時、もしリンドウさんならなんて言うだろうって考えたけど私にはどうしてもその答えが見つからなかった。何も言えないまま、自分ひとり冷静な振りをする事しか出来なかった私は……きっと、リンドウさんにはなれない」
「分かってるならいい。お前には向いてない」
「ああ……知ってる」

短く返した私の心にふと浮かんだのは、それとは全く違う考え。
私ですらあの場に至るまで気づかなかった事なのに、ソーマはどうしてそれを見抜いていたと言うんだろう。
部下やってれば分かる、なんてソーマは言っていたけれど、他人に興味すら持っていなかったはずのソーマがどうしてそんな事を理解しているのか。
……アーク計画の件で私の中で渦巻いているのとは別の、かすかな違和感。
私が思い違いをしているのは何も、アーク計画の件だけではないのかもしれない――不意に頭をそんな考えが過ぎる、が……それを直接ソーマに問う事は私には出来なかった。

何故聞けなかったのか、それは――怖かった、のかもしれない。
そのとき私の中にあった微かな期待とは違う答えをソーマが返してくるのが。

ソーマは私が思っている以上に私のことを考えていてくれているのではないか、そんな期待を抱いている理由。
後から考えればそんなもの、たったひとつしかあるわけがなかったのに……そこで考えるのを止めてしまった私は、まだこの段階ではその理由に――自分がソーマに抱いている感情がいつの間にか違うものに変わっていたのだと言う事に気づく事が出来ないまま、だった。

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