Dream | ナノ

Dream

ColdStar

ハピネス

私が独りで作戦に出撃するのは良くある事で、だからこそ私が単身で作戦から戻ってきても皆何かを言ったりするようなことはない。
何かを言われるとしたらお疲れ様とか精が出るなとか、そんな程度。私だって返事をするのにありがとうとかいつもの事だとか、単純に一言だけしか返さないでいいような言葉だけ。
……それでも、私自身では気付かなかった私の異変にソーマは真っ先に気付いた、ようだった。

「なんかあったのか、ミッションで」

エレベーターを降りて自動販売機の前のベンチに座っていたソーマは私の顔を見るなり真っ先にそんな事を尋ねてきた。

「……どうしてそう思った?」
「藍音見てりゃそのくらいの事は分かる。なんとなく……落ち込んでるように見えた」

自分ではそんなつもりはなかったのだが、もしもそう見えたとしたらその理由は……
自分でも思い当たる節のある「そのこと」をソーマに告げたら何を言われるだろう、なんてことがふと気にはかかったが、残念ながらここで私が黙っていて見逃してくれるソーマではない。
なんとか誤魔化せないかとソーマに背を向け、自動販売機でコーヒーを2本買う。
そのまま、1本をソーマに投げ渡してからソーマの隣に腰掛けた……その間、私は言葉を発する事が出来ないままだった。
……リンドウさんの一件をサカキ博士とツバキさん以外誰にも話さずに一人で進め、その結果部隊の皆にもひどく心配をかけた事実があってからソーマは私がまた何か隠し事をしているのではないか、独りで抱え込んでいるのではないかと必要以上に問いかけてくるようになった。
それだけ私がソーマに想われているのだと考えれば悪い気はしないが、それでもこんな時は……こんな事をソーマに言うのもなんだか気が引けるからこそ、できれば聞いて欲しくなかったなんて勝手な事を考えながらコーヒーのプルトップを引き開け、そのまま静かに口を開いた。

「グボロ・グボロ黄金の言い伝えを聞いたことがあるか?」
「ああ、コウタが何か言ってたな。目撃したら幸せになれるとかなんとか」
「……見かけたんだ、今日のミッションで」

短く伝えると、ソーマは訝しげに眉根を寄せる。
そう、今日私が請け負ったミッションは教会に大量発生したグボロ・グボロの討伐。あまり大人数を割く事ができないと言うので私が独りで請け負うことになったのだが、流石に独りで中型アラガミを複数体、それもあんな狭い場所で相手するのは相当に骨が折れた。
……そしてその最中、通常のグボロ・グボロに混じって金色に光り輝くグボロ・グボロの姿を目撃したのだった。
暫しの沈黙の後、不審そうな表情のままソーマは更に私に向けて言葉を重ねる。

「話が繋がってねえ。目撃したら幸せになれるものを見かけたんなら喜ぶとこだろ。なんでそれで落ち込んでるんだよ」
「……確かに、目撃したら幸せになれるとは言われている。だが……」

やはり言葉にするのはなんだか躊躇われる。自分でもこんな事を考えるのはあまりにも子供じみていると思っているのだ、それをソーマに聞かれたらなんと思われるか。
今更何を思われても別に気にするような間柄ではないが、やはりそこはそれ……私にだって矜持と言うものがあるわけで。

「だが、どうした」

沈黙を許してくれそうにないソーマの言葉に、私はひとつ息を吐いた。
つい数ヶ月前までは他人に興味を持たず、淡々としていたソーマではあったが……彼がこうして心を開き、仲間の事や私のことを思いやれるように変わったことは嬉しいと思いながらこう言う時はその追撃がなんだか恨めしく思えたりもして。

「……どうせなら、ソーマと一緒に見たかった……なんて、思っただけだ」

走る沈黙。静寂を破ったのは、ソーマが微かに発した笑い声……だった。

「何だそれ、くだらねえ」
「そう言うと思ったから言いたくなかったんだ」

自分だってその事を思いついたときにくだらないと思ったのだ、ソーマがそう言うであろうことは容易に想像ができようと言うもの。
ソーマから視線を反らし、私は誤魔化すようにコーヒーを一口飲んだ。その私の動きに釣られたかのようにソーマもプルトップを開き、缶に口をつける。
ほんの数瞬の沈黙の後……ぽつりと、ソーマが呟いた声が私の耳に届いた。

「見たら幸せになるアラガミを一緒に見られなかったくらいで幸せになれないような浅いもんじゃねえだろ、俺たちの仲は」

何故だろう。
ソーマのその言葉を聞いた瞬間に、私は思わず小さく噴き出していた。

「……何笑ってるんだよ」
「いや……まさかソーマがそんな事を言い出すなんて思わなかった」
「ったく、さっきまで落ち込んでやがったくせに」

ぼやくように一言そう呟いたソーマを見ていると、なんだかそれが余計に可笑しく思えて仕方ない。
それに、私が笑ったのは別にソーマの言葉が可笑しかったからじゃない……そんな当たり前のことにすら思い至れず気を落としていた自分が可笑しかったから。
一緒に見れば幸せになれるとか、そんなものは大して気にするような事じゃない。こうして隣にいて、こんな他愛のない話ができる事の方がよっぽど幸せなのだと……隣にいるソーマの横顔を見つめながら、私は改めてそんな事を確かめていた。

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