Dream | ナノ

Dream

ColdStar

想ったり、願ったり

「ああ……ここで新次郎が颯爽と助けに来てくれたら……なんちて」

どこか遠くを見つめながらうっとりとした表情でそんな事を呟くジェミニの言葉に、すぐ近くで臨戦態勢に入っていたソーマが呆れたように眉を顰める。

「おいエリカ。そこで妄想に耽ってる馬鹿を何とかしてやれ」
「でも気持ちは分かりますよ……今ここでもしも誰かがプリンを持ってきてくれたら、なんて思っちゃいますもん」
「戦闘の最中にプリン持ってくる奴なんているわけないだろうが」

はぁ、と大きくため息をついてソーマは近くにいた魔物の方に視線を送る。どうやら少し離れた場所で戦っていたハーケンと神夜の方へと向かって行ったらしく、ソーマは僅かに気が抜けたような表情をしながら臨戦態勢を解除して辺りを見渡した。
次に攻撃が出来そうな敵はまだ遠く離れている。様子を見てハーケン達の助太刀に向かった方が良いだろう、と思いながらちらりと視線を送るとジェミニは未だにどこか遠くを見つめているようだった。

「おいジェミニ」
「……はっ。い、いやぁ……ボク、ついこうやって色々と……」
「状況を考えろ。大体、お前の言う『シンジロウ』ってのが誰だか知らないが、お前はそいつをこんな世界に迷い込ませてこんなわけのわからん戦いに巻き込みたいのか?」

言い切って改めて神機を握りなおしたソーマに、ジェミニは何事か反論しようと口を開きかける……だが、ジェミニが何かを言う前にアリサがそんなソーマの背中に向かって一言言い放った。

「つまりソーマは、藍音さんをこの戦いに巻き込みたくないから藍音さんにこの世界には来て欲しくない……って言いたいんですね」
「……深読みしすぎだ」

アリサの言葉に対しての反論までには一瞬の奇妙な間が存在していた。それがアリサの言葉が図星を指していることの何よりの証左。
先に一歩踏み出したソーマの背後で、ジェミニが小さくにやりと笑う。

「あ、もしかして『藍音さん』ってアレ?噂の、ソーマの恋人」

ジェミニから発せられた言葉に、背中を向けていたままのソーマがすぐに振り返る。無表情にも見えるのに……その表情はどこか取り繕ったようにも見えていた。
作られた無表情から、普段のソーマらしくない冷たい声が発せられる。これもまた、動揺を隠すように冷静を装っているように聞こえたのはその場にいた三人だけなのだろうか、それとも。それは、誰にも分からない。

「……どこで噂になってたんだ、そんな話」
「ボクはリンドウに聞いたんだけど」
「……あの野郎……余計な事をべらべら喋りやがって」

ソーマは小さく舌打ちをして再び三人に背を向ける。
そのソーマを見ているジェミニとエリカの笑顔はなんだかとても楽しそうなもので……アリサも、ソーマを追う様に足を出しかけて、すぐに止めた。
そして、楽しそうな笑みを浮かべる二人に向けて同じような笑顔で一言だけ言葉を放つ。

「まあ、ソーマはこう見えて藍音さんには本っ気でベタ惚れですからねえ」
「アリサお前、余計な事言ってんじゃねえ」
「……私、何も間違った事言ってませんけど?」

悪びれる様子もなく返して、すぐにアリサは歩き出したソーマを追う。
そんなやり取りを聞きながら、暫しその場に留まる事を決めたジェミニとエリカの話題の中心が……

「あのソーマが本気でベタ惚れだって。どんな人なんだろうねえ」
「ソーマさんがそれだけ骨抜きになるって……愛の力は本当に偉大ですよね」

……彼女たちのまだ見ぬソーマの恋人のことになるのは無理からぬ話かもしれなかった。

 Return 



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -