Dream | ナノ

Dream

ColdStar

些細な願い

「……そんなもん、ひとりで背負って……かっこつけてんじゃねえよ」

この事をコウタに話すのが正しかったのかどうか、私にはまだ分からない。
だが、シオの言葉に激昂したソーマの、その感情の理由……それは、きっと「このこと」を話さないとコウタには理解できないだろうと思ったし、私自身その事を知らなければきっとソーマが怒る理由なんて分からないままだった。

「藍音は……それを知ってたからずっとソーマのことを気にかけてたんだな」
「そうとばかりも言い切れない。だが……この事実を知ったことで何かが変わった、気はした」

海を見つめながらふぅ、とひとつ息を吐いた私に、コウタとシオが同時に視線を向けてくる……その視線に籠められた意味はきっと違うのだろうけれど。

「やっぱ、藍音は凄いよ。それを知っても何も変わらずにソーマと接する事が出来るって、強いな……俺、ソーマに何て言えばいいのかまだ分からないもん」

ぽつりと呟いてコウタはソーマが去っていった方へと視線を移す。彼は彼なりに、ソーマに対してどう接するべきか考えているのだろう……それに対して私がどうこう言えるようなことはない。
考え込み始めたコウタのことはそっとしておくとして、私は防波堤に腰掛けたままのシオにゆっくりと歩み寄った。

「……シオ、美味しかったか?」
「とってもうまかったぞー」
「そうか……よかった」

言葉にならない気持ちを抱えたまま、私はシオの頭を撫でる。嬉しそうに笑ったシオを見ているだけで、自然と私も自分の表情が緩むのを感じていた。
シオを見ているとなんだか穏やかな気持ちになれるのは、彼女が私がとっくになくしたような気がしていた純粋さを持ち合わせているからなのだろうか……
私がそんな事を考えているとは露知らぬのだろうシオは、いつものように無邪気な笑みを満面に浮かべて私に向かって手を伸ばしてきた。

「シオ、そーまだけじゃなくてあいねともあえてよかったとおもってるからなー」
「……ああ」
「こうたともありさともさくやとも、みんなとあえてよかった」
「……私も、だ」

夕陽に染まる海に視線を移し、茜色の水面をぼんやりと見遣る。
壊された文明、崩れ往く世界。だが、それでもこうやって……残っているものはある。そしてその、残っているものを残し続ける為に私はここにいる。
そんな事を考えているうちにふと、前にソーマから聞かれたことを思い出していた。

 ――その美しさを理解できるアラガミがいたとしたらお前はどうする。

今になって思えば、きっと……その言葉で彼が問いかけたのは、拒絶され続けた自分自身の事だったのだろうなんてことを考えていた。
シオに一緒にするななんて言いながら、彼は自分を半分アラガミだと……あざけるようにそう思っていた。寧ろ、そう思っていたからこそシオの言葉を激しく否定してみせたのだろう、なんて。

「シオ」
「んー?」
「この海を見て、どう思う?」

私の問いかけに、シオはんー、と首を傾げながら海の方へと視線を移す。
暫く何事か考えていたが、ふと……思いついたように、にっこりと微笑んだ。

「おいしそう……だけど、たべるのもったいないな」
「……シオらしい」

気付けば私はシオの頭を撫でながら噴き出していた。

「アラガミとか人間とか、関係ないのかもな」
「んー?」
「私たちだって美味しい物を食べれば幸せな気持ちになるし、誰かと出会えたことを幸せだと思える。シオと私たちの間に大きな違いなんてないのかもしれない、と思った」
「……それは、ソーマも……って言いたいんだよな、藍音は」

何かを考えていたらしいコウタにそう付け加えられ、私は大きく頷いてみせた。

「ただ、私たちがそう考えた所でソーマは今はまだ戸惑っているんだろうがな」
「……不器用な奴なんだな、あいつ」
「そうだ、だから私は……」

その続きは上手く言葉にはならなかった。
だからこそソーマの近くにいたいと思ったし、だからこそソーマに心を開いて欲しいと思った。ただそれだけの事ではあったが、それでもこの気持ちを的確に言い表せる言葉が私にはどうしても分からなくて。

「……なあ、シオ」
「んー?どうしたんだ、あいね?」
「ソーマも、私たちと出会えて嬉しかったと思ってくれているといいな」
「うん」

ようやく言葉で意思の疎通が出来るようになったばかりのシオの言葉をそのまま借りるというのもなんだかおかしな気がしたが、それが一番的確に今私が考えている事を表してくれているような気がしていた。
ほんの小さな願いではあるけれど……彼がそう思ってくれているならば私は、きっと……それだけで、報われる気がしていたから。

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