Dream | ナノ

Dream

ColdStar

出会えてよかった

無理やりに服を着せられるのを嫌がってアナグラを飛び出したシオを探して、私たちは廃寺へとやってきていた。
手分けして探しているうちに、多分いるとしたらここだろうと考えて本堂に近づくと……中から、話している声が聞こえてくる。
それは、間違いなく……シオと、そしてソーマのもの。
私は自然と本堂へと上がる階段の下に身を隠していた。

「予防接種程度とは言え、生きる為に自ら望んでアラガミの細胞を取り込んでるんだ……俺以上に救われねえ奴らさ」
「うん、シオわかるよ。みんなおんなじ、なかまだってかんじるよ」

……仲間、か。
ふと頭の中に、先日シオと話した事が思い浮かんだ。

 ――私たちだって美味しい物を食べれば幸せな気持ちになるし、誰かと出会えたことを幸せだと思える。シオと私たちの間に大きな違いなんてないのかもしれない……

ソーマの言うとおり、私は……私だけじゃなく、まだ遠くでシオを探しているコウタも、アナグラで私たちの帰りを待っているアリサやサクヤさんも皆、もしかしたら救われない存在なのかもしれない。
だがそんな私たちの事をソーマが仲間だと感じてくれているのだとしたら……なんてことを考え、私は小さく笑う。
その時、背後で聞こえてきていた足音が不意に止まり……私の耳に届いたのは、ソーマの声。

「いるんだろ、藍音」
「気付いてたのか」
「分かりやすいんだよ、お前は」

ソーマの声に僅かに笑いが含まれているのに気付いて、私は階段の方へと足を向ける。
ソーマも僅かに笑みを浮かべ、シオもまたいつもの彼女のように満面の笑みで私に向かって小さく手を振っていた。

「あいねだー、あいねもなかまだからな」

シオの言葉はきっと、私が二人の話を聞いていたのだという事を分かった上でなされたものなのだろう。どことなく気まずさを感じなかったわけではないが、その上で私はシオに向かって笑顔を返した。
さっきの話を聞いていて思ったこと、そして――ソーマの出自を知ったときからなんとなく考えていた事。それが、不意に私の口から言葉となってあふれ出していく。

「……私が仲間になれたのはソーマがいてくれたからだがな」

私の言葉に、ソーマの視線がこちらを捉える。その表情から、笑顔が消えたような気がしたのは……あくまで気のせいだと自分に言い聞かせ、私は話を続ける。

「この間からなんとなく考えてたんだ……ソーマの存在が今のオラクル細胞研究発展に一役買ってるとしたら、神機使いの『私』がここにいるのはソーマのおかげだ」

この事を思いついたきっかけは、この間コウタが言っていた「ソーマが全ての神機使いのオリジナルだ」という言葉。
頭の中でなんとなく、靄のようにぼやけていた考えがその言葉にはっきりしたような気がして――私がソーマに執着している理由、それはひとつではないにせよそのうちの重要なファクターとしてこの事実があるのではないかとなんとなく思っていた。
だから、どうしても……伝えなければいけない言葉が私の中にはある。

「感謝してる、ありがとうソーマ。私を仲間でいさせてくれて……ありがとう」
「……俺を買いかぶりすぎだ」

視線を反らしたソーマだったが、それが私を拒絶しようとしての事ではないというのは分かる。
やがて、視線を反らしたまま……ぽつりと、短い言葉がソーマの唇からは溢れ出る。

「もし俺が生まれなくたってその研究は進んでただろうさ」
「でも、現実として研究を進めるきっかけとなったのはソーマなんだ」

数多の犠牲を出して凍結されたマーナガルム計画。だが、その結果として生き残ったソーマの存在がオラクル細胞の研究に一役買い、こうして私達神機使いが存在している。
誰にも知られることなく、ただその存在を疎まれ続けてきたソーマ。だが、私達が――神機使いがソーマに向けるべき感情はそんなものじゃない。
その事実を知っている私はせめて、今思っていることを全てソーマに伝えなければならない。

「あんたは生まれてきてから沢山のものを背負い、自分自身の人生さえ犠牲にし続けてきた。その犠牲の上に今の私が、皆がいる。だからソーマのことを大切に思ったって構わない。違うか」
「……全く、お前ら皆して」

呆れたように呟かれたソーマの言葉に、嫌悪感は含まれてはいなかった。
それは僅かとは言え、ソーマが私たちの存在に心を開いてくれていることの証左であるような気がして……自然と私の表情もほころんでいた。
そしてもうひとつ……今のソーマに、伝えておきたいと思ったこと。

「ありがとう」
「だから、俺を買いかぶるなと」
「違う。私の力がソーマの存在の上にあるんだと私が気付くまで生きていてくれて……伝えさせてくれて、ありがとう」

確かにマーナガルム計画は沢山の犠牲を生み出した。そこで命を落とした人も沢山いる――だが、私が「何かを守る力」を得た裏にその存在は確かにあって、ソーマが背負ってきたのはその負の遺産……だが、私がこうして生きている事を、戦える事を感謝する対象になりうるのがソーマだけだということは変わりのない事実。

「藍音……ほんとに、お前は」
「全てを知ってからより、ソーマを大切な存在だと思えるようになった。そういう意味ではサカキ博士にも感謝しなければいけないかな」
「なー、あいね」

そこまで話した所でシオが不意に私の方を見てにぃっと笑う。

「たいせつってうまいのか?」

あまりにも彼女らしいとしか言いようのないシオの言葉に、私とソーマは思わず目を見合わせて小さく噴き出していた。

 Return 



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -