Dream | ナノ

Dream

ColdStar

Smily

任務を終えてアナグラに帰投する。
いつもならこのまま自室に帰るのだがそんな気分にはなんとなくなれそうになく……私は誰にも気付かれていないのを確かめるようにしながらサカキ博士の研究室に向かっていた。
手にしているのは、今の任務で手に入れたアラガミの素材。アラガミから捕喰した後、大したものじゃないがちょっとしたおやつ代わりにはなるだろうか……なんて手に入れた瞬間にぼんやり考えている自分に気がついて、その場でついつい苦笑いを浮かべてしまったものだった。
なんにせよ、研究室に向かうと博士は丁度不在にしていたようで……私はそのまま、研究室の奥に作りつけられた扉の向こう、アラガミの少女に与えられた部屋へと向かう。
扉を開けると……ベッドサイドに座り込んだ少女の近くに、ソーマが立っているのが目に飛び込んできた。

「何してるんだ、こんなところで」
「藍音こそ……」

互いに言葉にしかけたものの、ソーマは私の手にあるものを見て言葉を止めた。私が、アラガミから回収した素材を彼女の為に持ってきたのだとそれで分かったのだろう。
そのソーマの様子を見ながら、彼女に回収してきた素材を手渡してやると満面の笑みを浮かべて私を見上げてきた。

「大したものじゃないけど、おやつくらいにはなるかと思って」
「オヤツ!」

まるで花が咲くようにぱぁっと笑みを浮かべてみせた『彼女』はそのまま私の手渡した素材を手ずから口に放り込んでいく。
その様子を横目で見ながら、私は部屋の中をぐるりと見渡す。
どうやら博士からクレヨンを与えられたらしく、部屋の壁にはアラガミと思しきものやその他にも色々と色鮮やかな絵が描かれていた。
ついこの前まではお腹すいた、なんてことしか言わなかったのに短い期間で随分と成長したものだ。そんな事を考えながら、同じように部屋の中を見渡していたソーマの方へと視線を向けた。

「それにしても。化け物だなんだと言う割には気にかけてるじゃないか」

ソーマが何故ここにいたのか……それは、私が来る前から『彼女』の周りに転がっていたアラガミ素材の欠片を見れば嫌でも分かる。
大方私と同じように、彼女を気にかけて様子を見に来たのだろう……手に入れた素材がおやつ代わりにはなるだろうなんて口実を持って。
私の言葉に、ソーマは誤魔化すように視線を反らす。私のことも『彼女』の事も見ないまま、ソーマはぽつりとだけ呟いていた。

「俺が半分アラガミと知ってなお理由も分からないまま俺に執着しようとしてるお前がそれを言うか」
「……反論できないな」

冗談めかして言ってやりながら、既に『彼女』が半分ほど食べ終えたアラガミ素材に視線を移す。ここにやってくるまでの間は本気で食糧を根絶やしにされていたらしくずっとお腹を減らしている『彼女』は与えれば与えられるだけ食べてくれるので食糧の持ってきがいがあるものだ、なんて考えながら私は更に手の中にあった素材を『彼女』の前に差し出してやった。

「もうひとつあるから、それを食べ終わったらこっちも食べるといい」
「うん!オヤツ、オヤツ!」

満面の笑みはやはり最初に感じたとおりとても愛らしい。こうして見ていると、『彼女』がアラガミだなんて到底信じられないほどに。
気付けば、そんな私と『彼女』のやり取りをソーマは黙って見つめていた。
その視線の意味がにわかには読み取れず、私は顔を上げソーマの方を見遣る。それに気付いたのか再びふいと視線を反らしたソーマ。その意味が分からないまま、私は無意識に口を開いていた――

「ソーマ」

名前を呼んではみたものの、その後の言葉を続けることが出来ない。
何を言えばいいのか良く分からないまま、ふと……ソーマの名を呼んだ事で思いついたことを苦し紛れに口にしていた。

「この子も名前で呼んでやれないと不便だな」
「……シオ」

私の言葉に応えるように、ソーマが短く言葉を発する。

「シオ……?」
「フランス語だったか、子犬って意味だ。さっきこいつを見ていて思いついたんだが、子犬みたいに懐いてきやがるしいつも腹減らしてるし、どことなく犬っぽいだろ」

犬っぽい、が褒め言葉になるかどうかは今は考えなくていいだろうし、ソーマの性格まで勘案すればそれが褒め言葉か否かまで考えて口にしているとは到底思えなかった。
だが、ソーマの呟いた名前……その意味まで込めて、目の前にいる『彼女』にはとてもよく似合っているように、少なくとも私には思えていた。

「ソーマ……意外とセンスあったんだな」
「意外とは余計だ」

不服そうなソーマの一言は聞こえなかった振りをして、ひとつめに手渡した素材を食べ終わりふたつめの素材にかぶりついていた『彼女』の頭を撫でる。
人間の髪とはどこか違う感触に少しだけ驚きはしたものの、それでも手を止めることなく撫でていると『彼女』が不意に顔を上げた。

「あんたの名前は『シオ』だって。ソーマがつけてくれた」
「シオ……?シオ!」
「いい名前だな」
「うん!」

満面の笑みのまま頷くシオに、私は頭を撫でる手を外してソーマのほうを見遣る。
ソーマは相変わらず、黙ったまま私とシオのやり取りを聞いているだけだった。

「気に入ったみたいだぞ、シオって名前」
「……そうか」

短く呟いて視線を反らしたソーマ。だがその表情は明らかに……
気付いた瞬間、自然と私からも笑みがこぼれていた。そう言えば、はっきりと彼のこんな表情を見たのは初めてのような気もする。

「今、笑ってた」
「なっ」

私の一言に言葉を失ったのか、背を向けるソーマ。なんだか彼らしくないと思いもしつつ……きっと口にしたらソーマは怒るのだろうな、なんて思いながらもそんなソーマを見て、なんだか可愛らしいとまで思ってしまった。
そんな言葉がソーマに似合うわけもないことは、私だって良く知っていたというのに……それでも、ソーマが笑顔を見せてくれたことがなんだかとても嬉しくて、幸せで仕方なかった。

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