Dream | ナノ

Dream

ColdStar

そこに在る使命

「……ソーマが居眠りなんて珍しいな、藍音じゃあるまいし」
「だからコウタ、この前からちょいちょい藍音さんに対して失礼ですよ」

廃寺の柱に凭れたまま眠るソーマの姿を見ながら、コウタとアリサがそんな事を話し合っている。
確かに。普段張り詰めた空気を纏っている彼がこうして、僅かの合間とは言えうたた寝をしている姿を見ることになるとは思っていなかった……

「気にしなくていいアリサ、コウタが失礼なのは入隊した時から一切変わってない」

私の呟いたことにコウタは僅かに不満げな表情を浮かべはしたが、それが間違っていない自覚はあるのだろうから更に反論を重ねる事はなかった。
ただ……気にかかるのは、ソーマの寝顔がどこか苦しそうなこと。時々漏らすうわ言に……やめろ、と言う言葉が混ざっているのは私の気のせいなんかじゃない。
ソーマが魘されている事実にはコウタやアリサも気付いたのだろう、黙ったまま顔を見合わせているがやがてアリサが心配そうに私の方を見た。

「あの……起こしてあげた方がいいんじゃ」

アリサの呟きに私が頷き、それを確かめたようにコウタがソーマに近づいたところで……膝を抱えていたソーマががばりと身体を起こした。

「クソッ!」
「うわっ!」

叫び声をあげて目を覚ましたソーマに、コウタは驚いたように一歩足を引く。びっくりさせないでくださいよ、なんて文句を言うアリサ、魘されてたけど大丈夫かなんてソーマを案じるコウタ。
珍しくそんな言葉に素直に答えたソーマを笑顔でからかうコウタだったが、ソーマが目を覚ましたことで安堵したのかにぃと笑みを浮かべて私達に視線を送った。

「そろそろ行くか……っと、その前に俺先行して様子見てくるな」
「あ……それなら私も行きます」
「お、珍しいなアリサがついてきてくれるなんて。雪でも降るんじゃね」
「もう降ってます」

私が止める間もなく本堂を出たコウタと、私にちらりとだけ視線を追ってコウタを追ったアリサ……本堂に取り残されたのは、私とソーマだけ。
彼が魘されていた理由がなんなのか、私には分からない……だが。

「一体どんな夢を見てたんだ」
「……化け物が化け物と呼ばれ続けてきたのを思い出した、それだけの話だ」

今日のソーマは……先ほどコウタが言っていたとおり、どこか素直に感じられる。
だが、その言葉はどうにも聞き逃せるようなものではなかった――私の知った彼の過去を思えば、きっと今アナグラで向けられているような冷ややかな視線や彼の心を抉る鋭い言葉と同じようなものをソーマはきっとずっと向けられ続けてきたという事なのだろう。
彼が見ていたのがそんな悪夢だとしたら……今日のソーマがどこか素直な気がする理由は、もしかしたらそれで彼の心が僅かとは言え弱ってしまっているからなのだとしたら。
一瞬だけちらと頭を掠めたその考えに、私はもう黙っている事は出来なくなってしまった。それがソーマを傷つける事に繋がっていたのだという先般の反省は一体どこへ行ったのやら。
心の中だけで自分に自嘲を向けながら座ったままのソーマの隣に立ち、視線だけは偵察に出たコウタとアリサの戻りを待つように本堂の外に向け……言葉は、ソーマに向けて放ってやった。

「もしもソーマが辛いと思うのなら私には話してくれていい。人に話すだけで楽になることって言うのもあるものだから」
「……お前に背負いきれるような軽いもんじゃねえ」

短く呟いてソーマは再び顔を膝に埋める。眠るつもりがあるわけではなく、その心を、感情を閉ざしてしまう為のその行動――
ここでソーマの言うとおり、そんなに軽くないならと手を引くのは簡単かもしれない――だが。

「そんなに『軽くない』ものをひとりで背負い続けるのは辛いだろう」

ソーマが心に負い続けてきたもの。それは、きっと私ならば一人で抱え続ける事が出来なかったであろうほどに重いもの。
その重みに弱らされたソーマに私ができる事があるとしたら、それは。

「……藍音」
「背負いきれなくてもソーマが背負ったものを後ろから支える事はできる」

前にソーマには問われた。同情のつもりかと。
この気持ちは確かに同情に似ているのかもしれない。
だが、私は確かにソーマを――もっと理解したいと。それが彼にとって迷惑でないのならば彼が心に抱き続けてきた痛みを軽くしたいと、心から願っている。
月並みな言葉になるけれど、それが……

「サカキ博士の真意は分からない、でも……私があんたの過去を知ったのはそのためだったんじゃないかって思ってる」

私の言葉に、ソーマからの返事はなかった。
私の言葉に対して彼が感じたことを問い返すよりも先に、本堂の外、遠くでこちらに手を振るコウタとアリサの姿が見える。あの様子だと、アラガミに見つかることなく様子を見てくる事が出来たらしい。

「行こうか、ソーマ」
「……ああ」

確かに今日のソーマはいつもより格段に素直なような気がする。
そんな事を思わせる短いやり取りの後、歩き出した私の背後にソーマの重厚な足音が聞こえる。
彼の背中にある重いもの、彼を縛る枷――私が軽く出来るなんてのはそれこそ思い上がりかもしれない。
だが、何も出来ないわけじゃない……ソーマに触れてはいけないと全てを諦めるのは簡単かもしれない、だがだからこそ私は――諦めたくない、そう強く願っていた。

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