Dream | ナノ

Dream

ColdStar

リフレイン

「行こうか、ソーマ」

短くそれだけ言って、先行偵察に向かったコウタとアリサに合流する為に歩き出した藍音に、短くああ、とだけ答えて俺もその後に続く。
俺の数歩前、廃寺の本堂を出て行こうとする藍音の背中は……隊長の風格を僅かに滲ませてはいたものの、俺からすればとてつもなく細く、華奢に見える。
この細い背中が、隊長として第一部隊を支えているのかとふと考え……さっき藍音が俺に言った言葉が不意に思い出された。

 ――背負いきれなくてもソーマが背負ったものを後ろから支える事はできる。

俺が半分アラガミと知ってなおはっきりとそう言い切った藍音が、俺にはどうしても理解できなかった。
俺は人じゃないと、死神と……化け物と呼ばれ続けてきた。丁度、さっき見た夢みたいに、生まれた時からずっと。
それで失うならそれまでと思いながらもどうしても、第一部隊の連中にはそれをはっきりと伝える事は出来なかった。そもそも、伝える必要すら感じていなかった。
だがそれを、サカキのおっさんが藍音に教えてしまったらしい……拒絶される前に自分から仲間を拒絶し続けてきた俺になんだかんだと正論を吐きながら付きまとってきていた藍音がその事実を知ったと聞いたとき、これでこいつも俺から離れていくんだろうかなんてことを考えた。
……だが、藍音が俺に言ったことは俺の想像とは全く違って……

 ――私にとってのソーマは今私の目の前にいるソーマだけだ。どんな過去を、どんな生まれを背負っていても。化け物でも死神でもない、ソーマはソーマだ……

今まで俺を拒絶してきた世界。それが俺の宿命なら、こっちから拒んでやると目をそらしていた世界の中にあって……藍音だけは、どこかが違っていた。
俺の身体が半分アラガミと知って、そんな事は関係ないと全てを受け止めた上でまだ俺に近づき、俺を受け入れようとする藍音の存在は……

 ――だから強くなる。ソーマを守れる位には……アラガミからも、ソーマを拒絶する世界からも。

疎まれる事に慣れていた俺を、それでも守ると言い切った藍音が本当は眩しかった。
このまま近くにいたらその眩しさに目を灼かれてしまうのではないかと思ってしまうほどに……だから、藍音から目を反らそうとしていた。だが俺が目を反らしても、そのまばゆさは俺から離れることなく、寧ろ俺を包み込むかのように傍にあろうとしていたのに気付いたのはいつだっただろう。
クソ真面目で、遠慮がなくて、とてつもなく頑固で。
でも……そのまばゆさを、どうしても嫌いにはなれなかった。
今までの俺なら決して、そんな事は考えなかっただろう。また失うんじゃないかと心のどこかで思っていた……
だから、藍音とは態度が違うとは言え俺に同じように近づいてきたエリックが喰われたその時に、こいつには言ってやった。俺には近づくなと。
それでもなお、藍音は俺の傍にい続けた。俺には眩しすぎる光を纏ったまま、俺を全力で受け入れようとして。

こんな事を考える自分がどうかしちまったんじゃないかなんて思う。だがそれでも俺の中に、はっきりと根ざしていたひとつの想い……
今まで俺を取り巻いていた世界の全てが……藍音みたいだったら良かったのに。
失うのが怖くないといえば嘘になる。俺に近づきすぎて、俺のせいで藍音を失う事になるなんて考えたくもない。
だが。

 ――あんたの存在が死を呼び込むなんてことは今後金輪際起こらないって証明するのが私の役目だって気持ちは変わってないし、寧ろより強くなった。

どうしてだろう。
その言葉を信じたいと、気付けばそう考えていた。
俺のせいで失うのは、信じて奪われるのはもうまっぴらだ。
今までの俺は、だからこそ全てを遠ざけてきた――だが、藍音は違う。
この僅かな期待を、裏切らないままで傍にいて欲しい……気付けば、そんな事を考えていた。

「どうしちまったんだろうな、俺は」
「何か言ったか」

振り返った藍音にはただ、首を横に振ってみせただけ。

……自分でも気付かないうちに、随分と藍音の存在が俺の中で大きなものになっていた……なんてことは、まだその時の俺には口にする事は出来そうにもなかった。

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