Dream | ナノ

Dream

ColdStar

Trigger of tragedy

一体今……何が、起こっている?

作戦を終え、帰投準備に入った私達は何故かリンドウさんとアリサとばったり出会った。
彼らもまた作戦の途中だと言い、私たちは外を警戒していたはずだった。
だが聞こえてきた銃声に、廃墟の中へ飛び込むと……崩れた壁の前へたり込むアリサの姿。
壁の向こうにはリンドウさんがいる。そんな中、ヴァジュラに良く似たアラガミに私たちは囲まれていて――

「アリサを連れて全員アナグラへ戻れ!」

リンドウさんの声、取り乱すサクヤさん。私はリンドウさんの指示に従い、アリサを背負って立ち上がった。
コウタが懸命にサクヤさんの腕を引いている。ソーマは退路を開くべく、ひとりアラガミと戦っている……

「サクヤさん……行きましょう」
「嫌、いや……リンドウ……!!」

本気で取り乱しているサクヤさんを見て、そこで私は気付いた。サクヤさんとリンドウさんは、きっと……

「サクヤ!藍音!何ぼさっとしてやがる、走れ!」
「分かっている……行きましょうサクヤさん」

ソーマの声に短く答え、アリサを背負ったままコウタと二人で無理やりにサクヤさんの手を引いてソーマの後ろを走る。
いくら細身で小柄なアリサとは言え人をひとり背負ったまま、いくらコウタと二人がかりとは言え抵抗してリンドウさんの元に戻ろうとするサクヤさんの腕を引いて走るのは至難の業だった。
だが、ここで倒れるわけには行かない。リンドウさんの命令を守らなければならない――このままここにいたら、全員が倒れてしまうことだって考えられたから。

走りながらソーマがアナグラに連絡し、軍用車を呼ぶ。未だ抵抗するサクヤさんを一番奥の席に押し込めその隣に自分の場所を陣取ってから、反対隣にアリサを座らせる。
事情が飲み込めないがリンドウさんが閉じ込められた原因はおそらくアリサなのだろう。そのアリサをサクヤさんの隣に座らせることは――この時の私には、できなかった。

***

報告などの雑務は……疲れきった私とコウタ、未だ錯乱するアリサ、力なくうなだれたまま泣きじゃくっていたサクヤさんに代わって全てソーマが済ませてくれた、らしい。
とにかく、エントランスのソファに腰掛けたまま私は気がつけば眠っていたらしく……目を覚ました時にはサクヤさんもアリサも既にしかるべき場所へと連れて行かれていて、そこにいたのは……私とコウタと、そしてソーマだけだった。
さしものムードメーカー、コウタも表情がどこか暗い。ビールの配給日にはきっと帰って来る、なんて言葉も、無理をして茶化してみようとしたのか表情と全く噛みあっておらず言葉だけがむなしく上滑りするだけだった。
そして、腕を組んだまま私とコウタに背を向けていたソーマ……コウタを置いてそちらに近づくと、気配を感じたのかソーマはちらりと視線だけを私の方へと送ってきた。

「この状況で居眠りとはたいした神経してやがる」

呆れたように吐き捨てたソーマに返す言葉も見つからない。
正直自分でも眠ってしまっているつもりはなかったが……

「自分だって寝ているつもりはなかったが……アナグラに戻ってきたら緊張の糸が切れた」
「……ったく」

ふん、と鼻を鳴らしながらソーマは真っ直ぐに私を見る。正直どんな言葉を返せばいいのか分からず、そのまま黙り込んだ私に彼は再び背中を向けた。
表情が見えないままソーマから発せられた言葉は……初めて出会ったときと同じように強く、私を突き放した。

「……だから言っただろ。俺の近くにいたら人が死ぬ姿を目の当たりにすることになるってな」
「リンドウさんは死んだと決まったわけじゃない、それに」

ソーマが発した言葉に、頭に血が上る。
そこから先は自分でももう、何をしているのか良く分からないまま……去ろうとしたソーマの腕を掴んで、ひたすらにまくし立てていた。

「大体、ソーマひとりのせいでリンドウさんがあんなことになったとでも思ってるのか?とんだ思い上がりだな」
「何っ」

振り返ったソーマの表情には明らかな怒りが芽生えている。
その表情に一瞬怯みはしたものの……私の言葉は、止まることがなかった。

「あの時、リンドウさんとアリサの間に一体何があったのかは私にも分からない、だがこの出来事が全てソーマのせいだなんてことがあるわけがないだろう」
「……生意気言いやがって」
「生意気だって言うならそれでいい。だが……リンドウさんのこととソーマの存在の間には何の関係もない。目の前で失った事実やそれで皆が苦しんでいる事実を全部自分のせいにして一人だけ悲劇のヒーロー気分に浸っているだけだろう」
「藍音……もういい、そこまで言わなくてもいいよ」

私の背後でずっと話を聞いていたらしいコウタが止めようと割って入る。
だがそんなことで、溢れ始めた言葉は止まることがなかった。ソーマの目を真っ直ぐに見据えて私は言葉を繋ぎ続ける。その意味などもう、考えていられなかった。

「辛いのはソーマだけじゃない。愛する人を残して逃げなきゃならなかったサクヤさんも、原因を作ってしまったアリサも、何も出来なかった私やコウタも……それから目を逸らして、自分ひとりが悪者になって抱え込めば終わるような顔をしてそれで済ませるつもりでいるんじゃないだろうな?」

黙ったままのソーマ。藍音……と短く私を呼んでそれきり黙ってしまったコウタ。
ふたりの言葉が続かない分、私の言葉はまだまだ止まることを知らない。
頭は回らないのに口だけは動き続ける。最早私は自分が何を思って何を喋っているのかすら自分でもわからなかった。

「辛いのは皆一緒なんだ、だからこんな時だからこそ私たちを頼れ……私だって今は辛い、だけど……ソーマを、皆を、支えることくらいはしたいと思ってる、だから」
「もういい」

ソーマはそこで私の腕を振り払い、エレベーターの方へ向かって歩き始めた。
ボタンを操作し、エレベーターがエントランスにやってくるまでの間、誰一人言葉を発することなどない。
ぽつりと聞こえたのは、苦々しげなソーマの一言だけ。

「お前がそう言ったって……他の連中は皆勝手に俺のせいにするだろうな」
「もう一度言うがこの件がソーマのせいだなんてのはただのあんたの思い上がりだ。リンドウさんがあんなことになったのとソーマは関係ない、それに……あんたがいてくれたから、私たちは生きて帰ってこれた。だから私はあんたに感謝してる」

ソーマが返事をするより先に開いたエレベーターの扉。乗り込んでいったソーマの姿はすぐに扉に遮られ私からは見えなくなってしまった。

「……藍音……」

エレベーターの扉を睨み付けたままの私に、コウタが恐る恐ると言った様子で声をかけてきた……振り返りはしたものの、笑顔を作ってみせる余裕はその時の私にはなかった。

「大体リンドウさんもリンドウさんだ。私に、ソーマに自分の存在が死を招いているわけじゃないって教えてやればいいって言っておきながら……こんな」
「藍音……もしかして、泣いて……る?」
「泣いてない」

そのままコウタに背を向け、私もエレベーターへと足を向けてすぐに乗り込んだ。
その瞬間、頬を涙が伝う。……この涙をコウタに見られなくて本当に良かったと心から思った。

大体が……ソーマには支えてやるなんてえらそうなことを言ったものの。
後から思い起こしてみれば本当は誰かに支えて欲しかったのは、この時の私の方だったのかもしれない。
ソーマに投げかけた言葉は、支えてやると言う宣言だけでなく……支えて欲しいと言うSOSだったのかもしれない。
突き放そうとしているソーマが隠した優しさに甘えていたかったのかもしれない。

この時の私には、そこまで考える余裕なんて到底なかったけれど。

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