Dream | ナノ

Dream

ColdStar

想いが変える世界

出撃前に教官から、リンドウさんの捜索の打ち切りとリンドウさんを除隊として扱う旨が通達された。
コウタはそんなサクヤさんのことも、未だ病室で時々しか目を覚まさないアリサのことも案じている様子で……アリサの傍にいてやって欲しいとだけ言い残してサクヤさんの様子を見に行ってしまった。
……先日見舞った時には私が触れることで目を覚ましたアリサ。
もしかしたらまた、と僅かに期待を込めて病室に向かってはみたものの、かかっていたのは面会謝絶の札……
この作戦を終えて戻ってきたらまたアリサを見舞おうと考えを改めるとエレベーターに乗り込み、エントランスへ向かおうとしていた私だったが……
エレベーターはベテラン区画のフロアで止まり、扉が開くとそこにはソーマの姿があった。

「……ソーマ」

私を見て一瞬だけ表情を変えたソーマだったが、すぐに何事もなかったかのように私に背を向けてその視線を壁に送る。
……扉が開いた瞬間に彼が浮かべていた表情が暗かったことに気付かないほど、私は鈍いつもりはなかった。

「何があった」

私に背を向け壁に視線を送っていたソーマは小さく舌打ちをする。
ほんの僅か、問いかけてしまったことに後悔が残る――ソーマはそんな態度のまま短く言い放った。

「相変わらず遠慮のない女だ」
「そんな顔をしていたら気になるに決まってる」

今度はふんと小さく鼻を鳴らしたソーマ。
本当に何があったと言うのだろう。促すように一度だけ、近くて遠い場所にいる彼の名を呼んだ。

「ソーマ」
「やっぱり俺は死神だと皆考えている……とでも言えば納得するか」

……その言葉で、何があったのかおぼろげにだが理解できた。
ソーマに向けられたのであろう心ない言葉。リンドウさんが消息不明なのを自分のせいだとまだ抱え込んでいるソーマの心の傷――私は何を言えばいいのだろう。
言葉を失った私に、ソーマは再び小さく鼻を鳴らしてみせる。

「こんな話をしたところで、どうせお前は『それは思い上がりだ』なんて言うんだろ」
「ソーマ……」
「お前ひとりが何を言ったって、所詮俺はそんな存在でしかないってことだ」

エレベーターの扉が開き、ソーマは出撃ゲートの近くの壁にもたれかかる。
深い哀しみを秘めたソーマの表情……私は、ソーマを傷つけた犯人に対して深く怒りを感じていた。それが誰であるか分からない以上、私が勝手に怒っているより他にないのではあるけれど。

「たとえ世界がソーマを死神だと呼んだって私はそうは思わない……ソーマ、あんたは」
「じゃあお前に世界を変えられるのか?俺みたいな存在を勝手に生み出して勝手に疎ませ続けている世界を、お前に変えることが出来るっていうのか?」

世界は変えられない。
それは、神機使いになって強く実感したこと。
私が憧れた世界は、取り戻したかった世界は私ひとりの力で戻ってくるようなものではない。
でも……失われていく人たちを守ることくらいなら出来る。
スケールはもっと小さいのかもしれないけれど、きっとそれも同じ……
真っ直ぐにソーマの目を見据え、私ははっきりと言い放っていた。今考えていたこと、私がこれからなすべきことを。

「この世界全てを変えることは出来ないかもしれない。でも……私の手の届く世界だけでも変えてみせる。ソーマは死神なんかじゃないって証明する……リンドウさんと、約束したから」
「コンゴウごときに背中取られて気を失ってるようなお前に本当にできるんだかな」

言葉と共に鼻で笑われたような気がした。
確かにそれは忘れたい事実ではあるけれど、それを引き合いに出されると悔しさも一入と言うもので。
私は真っ直ぐにソーマを見据えたまま言葉を返す。

「だから強くなる。ソーマを守れる位には……アラガミからも、ソーマを拒絶する世界からも」
「……お前は、どうして」

ソーマの言葉はそれ以上続かなかった。
とは言えどうして、と問われたところでその明確な答えは私も持ち合わせてはいない。ただ……

「死にたくなければ離れろなんて理不尽な事を言われて納得が出来なかった、のかもしれない」
「……お前の考えることは相変わらず良く分からん」

ソーマがそう吐き捨てたところで、エレベーターからサクヤさんとコウタが姿を見せた。
サクヤさんの表情は先ほどに比べて幾分生気が戻ってきている。コウタが何を言ったのかは知らないが、落ち着いたようで何よりだと思い……そして、サクヤさんに対しては何も出来ていない自分のふがいなさをほんの少し省みた。

「ごめんなさいね……じゃあ、行きましょうか」
「はい」

神機を手に取り、出撃ゲートをくぐる。
私は戦うだけだ。せめて、この星を美しいと思う人がひとりでも減らなくて済む様に……そして、ソーマの傍にいたって死を早めたりはしないと証明するために。

その想いの根幹にあるものがなんなのか、それはまだ……私自身にも分からない。

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