Dream | ナノ

Dream

ColdStar

あこがれの…

「あのっ、藍音さん!」

エントランスで次の作戦について考え事をしていると唐突に私の背後からかけられた声……振り返るまでもなく声の主が誰なのかは分かる。

「どうした、カノン」
「あっあのっ、実は私……藍音さんにお伺いしたいことがあるんですっ!」
「私はブラスト砲は触ったこともないから誤射を減らす方法なら答えられないぞ」
「ええと、そんな方法があるならあるで聞いてみたいんですけど、そうじゃないんです。その、実はちょっと」

なんだか言いづらそうにもじもじとしているカノンを見て思わず首を傾げる。一体何をそんなに恥ずかしそうにすることがあるのだろうか。
私の疑問など意に介する風でもなく、カノンは私の隣に座ってこちらをじっと見ている。

「言いたいことがあるなら手短に」
「ええと、その……変な話なんですけど。この間のお休みの時、外部居住区で一緒に歩いている藍音さんとソーマさんを見かけたんですけど」
「……見られていたのか」

確かに心当たりがないわけではない。
前の休みに、私がかつて住んでいた辺りの地域を見てみたいとソーマが言い出したのでソーマを伴って外部居住区に行ってきたのだった。
外部居住区に出入りしているコウタはその日任務が入っていたので外部居住区に近づいてくることはないだろうと思っていたのだがカノンのことは完全に失念していた……

「その、それで……並んで歩いているおふたりが凄く絵になっていて、とても素敵で……だから、私も恋がしてみたいなあ、なんて……」
「……は?」

もじもじしながら言葉を紡いでいくカノンだが……正直、何が言いたいのかさっぱり分からない。
そんな話を私にして何になるというのだろうか。

「だから、その……藍音さんとソーマさんが、恋人同士になるまでのあれこれを聞かせていただけたらと思って、ですね」
「……と言われてもな」

カノンの聴きたいことは分かったが、では私はどう答えるべきなのかがさっぱり分からなかった。
あれこれ、と言われても私がしたことと言えば……

「ソーマに付きまとっていただけだな、今にして思えば」
「その、それはやっぱり……ソーマさんのことが好きだったから、ですよね」
「……良く分からない」

事実、自分がソーマに抱いていた感情が恋愛感情なのだと自覚したのは随分遅かった、様な記憶がある。
しかも自覚したのがアーク計画騒動の最中、そんな浮かれた状況でもなかったわけで。

「そもそも相手は?」
「え?まだいませんよ?」

当たり前のようにそう返してきた言葉に、私はがっくりと肩を落とすことしか出来なかった。

「……カノン。恋はしようとしてするものじゃない……気がつけば、相手の姿が自分の中から消えなくなって……愛してると自覚する瞬間が訪れる。相手もいないのに恋の仕方を聞いたって仕方ない」
「……藍音さんも、そうだったんですよね」
「まあ、な」

短く答え、自分がソーマを愛しているのだと気付いた瞬間のことを思い出す。
それでも、そんな甘い感情を呼び起こすようなものではなく……めまぐるしく流れていった日々の中で、ふと気付けば私の中にソーマの姿が焼きついていた。ただ、それだけ。

「じゃあ、私もまずは相手を見つけることからはじめようと思います!もし素敵なお相手が見つかったらまた相談に乗ってもらっていいですか?」
「私に相談に乗れるようなことだったらな」

短い答えに満足げに頷き、カノンは立ち上がるとその場を去っていった。
……一体なんだったのか、と思ったりもしたが……カノンが去った後に、彼女が言っていた言葉をふと思い出した。

 ――並んで歩いているおふたりが凄く絵になっていて、とても素敵で……

なるほど、傍から見て自分たちがどう見えているのかは全く考えたこともなかったが……カノンがそういうのなら、思っているほど悪くはないのだろう。
その事実が何故か嬉しくなって、私は作戦計画の書類を手にしたまま気付けば笑みを浮かべていた。

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