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ColdStar

もうひとつの命令

「で、話ってのは何だ」

いつもの出撃ゲート前、いつものソファ。
もうそろそろ外に出る者もいないだろうという時間になったところを見計らって、私はリンドウさんを呼び止めた。
大事な話がある、そう告げて。

「……たいしたことじゃないんです、でも」

これを言っておかないと多分、私はこの先何も変わることはないのだろう。
これを言うことはリンドウさんに対してはとても失礼なことになるのかもしれない。
だが、どうせ自分にとっては上官だった人に対してこれは命令だ、なんて言い放った事実を考えれば今更ひとつくらい失礼を上塗りしたところでどうと言う事はないと自分に言い聞かせて話を続けた。

「私は……リンドウさんがいなくなってからもずっと、リンドウさんを尊敬してリンドウさんに憧れて……リンドウさんの背中を追いかけ続けてきました」
「らしいな。この前ソーマにもそれを言われた……お前がずっと、俺になろうとして無茶をしすぎてたって」
「ソーマからはそれで何度も怒られてます。私がリンドウさんになろうとしたって元々の性格が違うんだから土台無理だって」

私の言葉に、リンドウさんはくすりと笑う。違いないな、と一言付け加えて。

「でも、リンドウさんが隊長への復職をしなかったことで、結果として私はリンドウさんを追い抜いてしまった」
「もしかしてそれを気に病んでたりするのか?気にすることじゃない、大変な時にアナグラにいなかった俺より、色々あった中で隊長として張り切ってた藍音がリーダーとしてやって行くほうが」
「そうじゃなくて」

リンドウさんの話を途中で止めて、私は目の前に置いてあった紅茶の缶に手を伸ばした。
一口だけ飲むと、再びテーブルの上に缶を戻してリンドウさんの方を真っ直ぐに見据える。
……リンドウさんは黙って、私の方を黙って見ているだけだった。
ああ、やっぱりこの人は私みたいな子供じゃなくて……私より人間としてはずっと上にいる人なんだと改めて実感する。
でも、これを言っておかなければ私は……変われない。

「確かに最初は迷ってました。でも……私、決めたんです。それならそれで私は私として、櫻庭藍音としてリンドウさん以上のリーダーを目指そうって」
「……ほう」

軽い相槌ではあったけれど、リンドウさんの目はとても真剣だった。それならば私だって、真剣に返すのが礼儀と言うもの。
元は上官だった人、私に戦い方を教えてくれた人。誰よりも尊敬していた人だから。

「少なくとも私は自分のことでソーマを悲しませたりはしたくない……ですし」
「痛いところ突いてきやがるなあ」
「私が言いたかったのは……今まで私の目標でいてくれてありがとうございましたってこと、それと」

そこで一度視線を伏せ、再び顔を上げる。
精一杯に作ってみせた笑顔がリンドウさんにどう見えていたのか、私には分からないけれど。

「リンドウさんはリンドウさんとして、私が目指す場所とは別の場所で為すべきことを果たしてください。サクヤさんを幸せに出来るのはリンドウさんだけですし、後進の教育ってどうも苦手で……そこはリンドウさんにお任せした方がいいと思ってますし」
「……それは、命令か?」
「命令です」
「上官命令じゃ逆らえないよなあ」

冗談めかしてそんなことを言ったリンドウさんだったが、不意に真面目な表情になって再び私を見た。

「俺の部下だった自分への訣別宣言、ってとこだろ。その命令」

返って来た答えに笑みが漏れた――やはりこの人は気付いていたか、と。
こう言う所はやっぱり尊敬できるし、いつまで経っても敵わない気がする。それともやっぱり、私がまだまだ子供なんだろうか。

「はい。ずっと尊敬していた人よりも上官になってしまった事実を自分の中で受け入れようとした結果、こうするのが最善だと判断しました」
「ほんとに変わったな……ソーマの心を開かせたいって俺に相談してきた時とはえらい違いだ」
「それが自信に繋がったのかもしれません」

愛しいと思った人を変えることが出来た。だから、自分にも出来ることはもっとある――
だがそれも元を辿れば、私のやったことなんてリンドウさんの命令を忠実に守っていただけではあるけれど。

「期待してるぞ、リーダー。お前さんにだったら俺が出来なかったことも必ず出来ると思ってる」
「はい。必ずその期待に応えます」
「まー、背中は任せとけ。藍音が藍音らしくリーダーとしてやっていける環境を整えてやるのが『部下』である俺たちの仕事だろ……っと、こんなこと言ってたらソーマにそれは自分の役目だって怒られちまうな」
「ソーマはそこまで心狭くないですよ……多分」

冗談に冗談を返して私は立ち上がり、エレベーターの方へと向かった。

過去は過去。未来へ続く道の中、まだまだ戦いは続く……それなら私は私に出来ることをやるだけ。
迷いと躊躇いを振り切った私を見守ってくれる沢山の人に心の中だけで感謝を述べて、私はエレベーターへ乗り込んだ。

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