Dream | ナノ

Dream

ColdStar

his line

「いやー、今日も疲れた疲れたっと」

エントランスのエレベーターから、大げさとも言える位大きく伸びをしながら降りてきた慧多を先頭に、その場に第三部隊の面々が姿を現す。
まだ第三部隊に配属されて間がないとは言え、アラガミとの戦闘センスは決して低くない。ただ、生来あまり頭が良くないせいか綿密に立てられた作戦にしたがって行動するのは苦手だからこそ若干扱いにくく――ただ、元々個人プレイの目立つ第三部隊の中ではその欠点は一応気にはならない範囲と言えるかもしれない。但し今後、他の部隊の面々と共同作戦を実行する時には要注意。それが、今の第三部隊内での慧多の評価だった。

「3回も気絶したお前を助ける為にリンクエイドに走った俺のほうがよっぽど疲れてるんだけどな。申し訳ないと思うんだったら今日の晩飯奢れ」
「ちょっとカレルさんその言い方酷い、つーか後輩に飯たかるのやめてくんない?」

そんな風に慧多がカレルに文句を言いながら受付カウンターにミッションの終了報告に向かう――その最中、カウンターの近くにいた人物に目を留めて慧多は足を止めた。

「あれ……おじさん?」
「……慧多君か。その腕輪は……そうか、君も神機使いになったのか」
「嘘、ケイが神機使い?いつの間に?私全然知らなかった」
「いつの間にって……配属になったのは割と最近かな。もしかしておじさんとかエリナもよくアナグラに来るの?」

随分と親しげに慧多が話しかけた相手は時折アナグラへとやってくる裕福そうな紳士と……その娘、エリナ。尤も、アナグラの神機使い達は彼ら親子のことをまったく違う立場としてみているわけではあるのだが。

「……ケイ、お前なんでお前エリックの父さんとか妹とかと普通に喋ってんだよ」

慧多の3歩後ろほどを歩いていたシュンが不思議そうに首を捻っている。……無理もないだろう、慧多がアナグラにやってきたときには彼らの息子であり兄であった神機使い・エリックは既にこの世を去っていたのだから。
エリックの親、妹として彼らとは知己である他の神機使いたちとは違う、どことなく親しげなやり取りに一行は首を捻るばかりだった。
そんな第三部隊の面々の疑問など露知らず、といった風情の慧多はそのまま親しげにエリナへと歩み寄る。

「にしても、エリナは随分元気になったなー。ま、初めて会ったときはまだ病院にいるときだったからその時に比べたらそりゃ元気にもなってるか」
「当たり前でしょ?私には夢があるの、落ち込んでなんかいられないわよ」
「……エリックがいなくなった当初は慧多君達にも随分と心配をかけたが、私達は上手くやっているよ。ああ、そのうちお父上ともまたじっくり話がしたいと伝えておいてくれないか」
「……ケイ、話が飲み込めないんだけど。どう言うことなの?」

フォーゲルヴァイデ父娘と慧多があまりにも普通に会話をしているものだから取り残されそうになっている第三部隊一行。その空気を打破するべく問いかけたジーナの言葉に慧多は困ったように眉を下げる。
あまり頭のよろしくない慧多ではどのように説明すればいいのか図りかねているのだろう――そこに助け舟を出したのは、やはりと言うかなんと言うか――年長者たる紳士であった。

「慧多君のお父上とは古い馴染みでね。仕事の上でも大層世話になったんだ。慧多君とそのお姉さん、妹さんはエリックとも年が近いし、家族ぐるみで仲良くしてもらっていた」
「そう、そういうこと」

あっさりと肯定してみせた慧多だったが、その発言にカレルの表情が僅かに変わる。流石にこの辺りは、金の匂いに敏感な彼らしいとも言えるかもしれない。
カレルはそのままつかつかと慧多に歩み寄り、その肩にぽんと手を置いていた。

「エリックの親父さんとお前の親父が古い馴染みで仕事仲間ってことは……ケイ、お前もそういう家の生まれってことだな?学校にも通ってたらしいし」
「そう言う、ってのがどう言うのを指すのか分かんねー……ああ、生まれは内部居住区だけど」
「ってことはこのご時世に仕事に困ることもない、正真正銘の上流階級の生まれ……そう言うことだな?」
「……そう言うことなの?俺、自分ではそんなこと考えてもみなかったけど」

きょとんとした表情のまま、何処となく目をぎらつかせているように見えるカレルの顔を見てから慧多は首を捻る。慧多ひとりが良く分かっていない状況の中、何処となく得心したようにジーナは大きく頷いていた。

「……ケイって変な所素直だしあんまり頭が良くない割には立ち居振る舞いはそこまで下品でもないでしょう?それが不思議だったんだけど温室育ちのお坊ちゃま、って考えたらそれもなんとなく納得がいくわ」
「ちょ、ジーナさんそれ褒めてないよね?」
「なるほど、ただのバカじゃなくて本気の世間知らずってことかぁ」
「今のシュンさんのは明らかに貶してるよね?」

言いたい放題の第三部隊に、それ以上どう反論していいのか分からず慧多は困り顔で一行の顔を見ているだけだったが……慧多の肩に手を置いたままのカレルはにやりと口の端を上げ、そしてそのまま慧多の肩をぽんぽんと叩いた。

「ま、そう言うことが知れただけでも十分だ。……ま、これからも仲良くやろうな?」
「カレル、あなた……何か企んでるでしょ」

呆れたようなジーナの溜め息の意味が分かっていないのか、慧多は相変わらずどこか間の抜けた表情でジーナのほうを見ていることしか出来なかった――わけで。


そして、その日の夜。

「っつーか、マジで俺に飯たかるの止めてって。俺、ミッションの報酬だけで生活してるから。親から、どんな仕事でも金貰ってやるんだったら親の手なんか借りずに自分の腕一本で生きていけって言われてんだから」
「なんだよ、つまらないな……まあ、今日はケイを助けてやった礼に飯を奢れって言ってるだけだからそんなのは関係ない」
「あの、カレルさん俺の話聞いてた?」

神機使い達が訪れる料理店の片隅でそんな会話をしている慧多とカレルの姿が目撃されるに至るのだが――それはまあ、どうでもいいことなのかもしれない。

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