Dream | ナノ

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ColdStar

鮫刃ノコギリ

「いやー、すっげぇなソーマさんもブレンダンさんも。俺もあんな風にバスター使いこなせるのかな」
「ちょっとケイ、私は?」
「だってアネットはブレードっつーかハンマーじゃん」
「だが俺たちばかりを参考にしすぎるのも良くない……アネットもケイもブレードだけじゃなくて銃撃との切り替えが必要だからな。その辺りは俺たちよりも寧ろ藍音やアリサの戦い方を見たほうがいいだろう」

ミッションからの帰りの車の中、慧多とアネット、それにブレンダンの3人がそんな話でわいわいと盛り上がっているのをソーマは黙って聞いているだけだった。
この日のミッションの依頼元は――新人教育担当、雨宮リンドウ。
バスターブレード使いの新型2人に近接攻撃の方法を見せてやってほしい、ちょうどおあつらえ向きに工場地帯でクアドリガが暴れててな……なんて、笑いながら肩を叩かれたときにはどう文句を言ってやったものかと考えてはいたが……

 ――バスターブレードの使い方を詳しく教えてやれるのは同じバスターブレード使いのあんたたちだけなんだ。面倒かけるが、私からも頼む。

……なんて真顔で藍音に言われてしまっては断ることが出来ないのはまあ……ソーマの側からすればただの惚れた弱みではあるわけだけれど。
もしかしたらそれを見越して藍音からも頼んでくれと吹き込んだのはリンドウだったのかもしれないが……そこはまあ、ソーマが追求する部分ではないのだろう。

「ねえ、そう言えばどうしてケイは今の刀身を選んだの?」

ソーマが考え事をしている横で、相も変わらずなにやら話していたアネットと慧多だったが……不意に思い出したようにアネットが声を上げる。
アネットは自分自身が今の刀身――ハンマータイプのものを選んだ理由として、アラガミの動きを止められるからだと語っていた。重すぎて動きが鈍くなるけどどうしても手放せない、と。
彼女自身がそんな理由を持っているからこそ、慧多が配属当初から鮫刃ノコギリと呼ばれる刀身を使用しているのか気にかけたのだろう。
だが、慧多はその問いに答えにくそうに頬を一度掻いた。

「え?……うーん、理由としてはすっげえしょーもないけど、それでも聞く?」

口調は軽いまま、慧多は視線をふと窓の外へと移す。
普段は何も考えていないような慧多の表情がその時どこか寂しそうに見えたのは車内にいる彼らの気のせいだったのだろうか?

「うん、聞いてみたいな」
「んーと。昔見た神機使いの人が持ってた神機がカッコよくてさ。あの鮫刃ノコギリ、それに形が似てるんだ。だから」
「……気を悪くしたらすまないが本当にくだらないな、その理由」
「だから言ったじゃん」

ブレンダンの短い言葉に対して慧多は拗ねたように唇を尖らせながら、ふと……寂しそうな表情を浮かべてぽつりと呟く。

「その人、俺の親友だった奴の仲間なんだ」
「親友……『だった』?」
「そ。3年くらい前かな……13歳で、俺の知ってる中では一番早く神機使いになったんだけど……14歳の誕生日が来るちょっと前に戦死した」

慧多の答えに、はっとアネットの表情が変わる。過去形であることを指摘したのを後悔するかのように。
慧多はそれを気にする様子もなく、淡々と言葉を繋ぎ続ける。いつもカレルからうるさいと怒られているのとはまるで別人であるかのように、静かな声で。

「それを知らせに、あいつんちに仲間だった神機使いの人が3人くらい来てたんだ。あいつ、俺なんかより腕っ節もよっぽど強かったし、それでもあっさり死んじゃったのにそれでも生き残ったこの人たちすげーなって思ってて」

そこで、慧多は一度言葉を切る。
何かを懐かしむように窓の外を見遣った視線の意味は――慧多本人以外、誰にも分からない。

「その1人が持ってた神機がさ、ああいうノコギリみたいな形してて、全体的に黒っぽくてすっげーカッコよくて。もし自分が神機使いになれたらああいう神機使おうって思ってたんだ。俺の親友が死んでもそれでも生き残ったその人たちみたいになりたくて」
「……その理由、くだらなくないと思うよ。私は」
「ありがと。でもさ……その人、アナグラでいくら探しても見つからなくて。その人も死んじゃったのか、それともよその支部に行っただけなのかわかんないんだけど……いつか会えたらいいなって思ってる」

きっと会えるよ、なんて力づけるように笑うアネットに嬉しそうに笑みを返す慧多の姿はどことなく希望に満ちているように見える――
それに対して、何を言うこともないソーマとブレンダン……それ以上、言葉が重なることはないまま車はアナグラまで彼ら4人を運んでいた。


「……多分、ソーマのことなんじゃないか」

車を降りて我先にと駆け出した慧多とアネットの背中を見送ったところで、ブレンダンがぽつりと一言呟く。
言いたいことは分からないわけじゃなかったが、それでもソーマは自分からその事実を口にすることはない。

「何が」
「ケイの親友の仲間だった神機使い」

……ソーマの使うイーブルワンは確かに、ノコギリのような刃を持っている。遠めに見れば慧多の使う鮫刃ノコギリと色違いだと言われてもきっと皆納得するだろう。
そして、慧多は言っていた――全体的に黒っぽかった、と。
慧多はきっと、シオのコアを捕喰した時から真っ白になったイーブルワンが自分の記憶の遠くに引っかかっている「カッコいい神機」と同じものだと気付いていないのだろう。慧多もアネットも、黒かったイーブルワンを使ってソーマが戦っている姿を見たことはないのだから。

「だとしても……一緒に出撃した奴が死んだ時のことなんざもう覚えてねえ」
「だろうな」

ソーマの言いたいことは分かるのだろう、ブレンダンは本当に短いその言葉だけを告げると先に行った2人を追う様に歩き始める。
……自分の過去なんて、ソーマにとっては忌まわしいものでしかないと思っていた。
それを受け入れてもいいと思えた影には藍音とシオの存在がある。だが、まさか自分がまだ自分を、そして自分の生まれた経緯を憎んでいた頃にそんな自分に僅かな憧れを抱いていた人間がいたことになんてソーマは気付いていなかった……

「……ほんとに変わったな、俺は」

ほんの少し嬉しいと思えるくらいには。
心の中だけで付け加えた言葉は、きっと誰にも伝わることはないのだろうけれど――

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