Dream | ナノ

Dream

ColdStar

帰るべき場所

「なんかさー、俺思うんだけど」

休暇を終えてアナグラに戻ってきたコウタがぽつりと呟く――その場にいたのはソーマだけだったので、その言葉はきっとソーマとアリサに向けられたものだったのだろう。
以前の彼らならば無視していたかも知れないその言葉に、2人とも視線を動かしてその瞳にコウタの姿を捉える。

「どうせまたロクなことじゃないんじゃないですか」
「またって何だよ、ロクでもないって何なんだよ!俺だって一応はちゃんと考えてるんだぞ?」

憤慨するコウタの様子は相当に可笑しいものではあるのだが、別に笑い出したりすることもなくソーマとアリサはコウタの言葉の続きを待つように視線を彼に向けている。
そのまま口を開くソーマは――少し前までなら絶対に黙ったままだったのだろうから、随分と変わったと言われるのも無理のない話かもしれない。

「何の話だ」
「俺、幸せなんだなって。家に帰ったら迎えてくれる家族がいるって……こんな言い方したら、もしかしたらソーマもアリサも気を悪くするかもしれないけどさ」

時折空気の読めないことを言うコウタではあるが、彼なりに……既に両親を喪っている仲間たちに気遣いの言葉を付け加えながらもしみじみと呟いたその言葉は、家族のために神機使いの道を選び何よりも家族を大切にするコウタの心情を考えれば当然と言えるものかもしれない。
そのことを知っているから、ソーマが今更気を悪くしよう筈などなかった。
特にソーマの表情が変わらなかったからなのだろう、コウタはそのままぽつぽつと言葉を繋ぎ続ける。

「俺にはできないな、って。帰る場所があるから俺は戦えるって思ってるから……皆凄いな、って改めて思ったんだ」
「私の帰る場所はここ、ですよ」

コウタの言葉にアリサがぽつりとだけ呟きを返す。
ここ、と言う言葉が何を指しているのか分からないのだろうか、コウタは僅かに不思議そうに首を傾げてみせた。

「ここ……アナグラが、第一部隊が、私の帰る場所なんです。そりゃあ、私にはもう家族はいませんよ?でも私にとって家族と同じくらい大切な人たちがここにいる……ま、コウタを含んでいるつもりはありませんけど」
「何だよそれ!最後の一言がなかったらいい話だったのに!!」

大げさにずっこけてみせたコウタの抗議の言葉にアリサがそれ以上何かを応えることはない。そのやりとりをきいていたソーマは……どこか遠くへ視線を送りながら、ぽつりとだけ呟いていた。

「藍音、だな」

短いその言葉が何を意味しているのか、その場にいる2人には分かったのだろう。
あまりにもはっきりとしていて大胆な、この場にはいない藍音に向けられた愛の言葉にアリサは驚いたように目を見開きコウタはにやりと笑ってみせた。
そして、笑みを象ったままのコウタの唇はそのまま、茶化すように言葉を続ける。

「けどさ、アリサにとっても帰る場所は第一部隊……大きくくくれば藍音の近く、だろ?じゃあその藍音の帰る場所はどこなんだろうな。あいつにももう家族はいないんだろ。一回聞いてみようかなあ」
「聞くまでもねえ……藍音の帰る場所はここ、だ」

からかい交じりのコウタの言葉とはそぐわないくらいに当たり前のようにここ、と自分を指差してみせたソーマの言葉に……コウタとアリサは互いに目を見合わせるより他になかった。
何一つ間違っていないと言う自信をたっぷりと含んだその言葉に、そして彼が抱いている自信に根拠がないわけではないことをコウタもアリサも知っているから、それ以上言葉にはならないまま。
暫しの静寂を破ったのは……どこか呆然とした表情のままのアリサ。

「なんか……ソーマって時々ものすごいこと言いますよね」
「何も間違ってねえだろうが」

言葉と共にソーマが小さくふん、と鼻を鳴らしたところで聞こえたのはエレベーターの扉が開く音。
開いた扉の向こうから姿を見せたのは何やら困難なミッションをひとりで受注し朝から姿を見せていなかった藍音……

「……一応藍音にも聞いてみようかなあ……って思ったけどさ、やっぱ」
「まあ、多分聞くまでもないでしょうね」

コウタとアリサのそのやりとりの意味が分からないのか僅かに首を傾げた藍音だったが、すぐにソーマに向けられた笑顔が何よりも……アリサの「聞くまでもない」と言う推測が正しいことを強く物語っていた。

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