Dream | ナノ

Dream

ColdStar

銀世界

普段はどう言う訳か日も落ちてからやってくることが多い廃寺に、その日はまだだいぶと日が高いうちから足を踏み入れることになった。
出撃メンバーは俺とジーナさん、それにシュンさんとフェデリコ。アラガミの数が多いってことでほんとに自然に俺たちは二手に分かれて戦ってたりして。

あらかた掃討し終わったところで、アナグラからの迎えが来るのを待ってる間……俺はぼーっと、少し離れたところで何か考え事をしてるジーナさんの方を見てた。
今日は二手に分かれて戦ってたわけで、前衛に立ってた俺を後ろからサポートしてくれてたジーナさんの戦ってる姿がちらちら視線に入ってきてたんだけど……なんか、地面に積もった雪が日の光を反射してキラキラしてる中でジーナさんの銀色の髪がやっぱりキラキラ光っててそれが凄くキレイだなーとか思ったりした。
……ま、そんなこと考えてたら横っ腹にグボロ・グボロの体当たり食らって何やってるのって怒られたりもしたんだけどそれは今はいい。
石垣に座ったままだった俺はそこからひょいと飛び降りると、少し離れた場所にいたジーナさんのところに駆け寄っていた。
ジーナさんも俺の気配に気付いたのか、すぐにこっちを向いてくれて。そんなことがなんかすっげー嬉しかったりとか、多分ジーナさんはそんなこと分かってないんだろうけど。

「あのさ、ジーナさん。俺思ったんだけど」
「どうしたの?随分真面目な顔をして、ケイらしくもない」
「真面目なのが俺らしくないってなんだよ」

不満を訴えながらも、そんな風に言われる理由もなんとなく分からないわけじゃないからあんまり言い返せなかったりとか……ま、それは今はどうでもいい。
雪景色の中で戦ってるジーナさんを見てて思ったこと。それをジーナさんになんとなく伝えなきゃいけないなって思ったから。

「さっき戦ってる時に思ったことがあるんだけどさ……ジーナさんってさ、雪みたいな人だなぁって」
「……急にどうしたの?寒すぎて熱でも出た?」
「いや、確かに寒いけど風邪引いてるわけじゃなくて」

自分でも妙な事言ってんなーって自覚はある。それでもなんか、その言葉を止める気にはなれなくて。
キレイに言葉にまとめることなんて出来そうになかったけど、それでも俺は……戦ってるジーナさんを見てて思ったこと、それを一生懸命言葉へと変えていっていた。

「銀色で、日の光浴びてキラキラしてて。キレイなんだけどなんとなく冷たくてさ、それと……時々物凄い、ふっと溶けちゃうんじゃないかって心配になる感じ。そういうの見てて、雪っぽいなーって」
「やっぱりケイらしくないわね」
「だから熱はねーって」

言葉と一緒に額に当てられたジーナさんの手はひんやりと冷たくて、それが余計に俺の思いつきがなんか正しいって言う証拠みたいになってる気がして。思い込みとか気のせいとか、そういうこと言われちゃったらそれまでなんだけど。
けど、俺から手を離したジーナさんはふっと悲しそうな表情を浮かべた。眼帯のせいで片方しか見えない目がなんとなく寂しそうな気がしたのは俺の気のせいだったのかもしれない――気のせいで、あってほしい。

「……雪なんて、ケイが思うほど綺麗なだけのものじゃないわ」

吐き捨てるように呟いたジーナさんの表情に、ぐっと心を掴まれた気がした。そのまま、きつく握りつぶされそうな……そんな、感じ。

「ケイはまだ子供だから、ケイにはそう見えてるだけ。でも……そうじゃないの。そうだと分かって、貴方はそれでもまだ雪を綺麗だと言うのかしらね」
「キレイだよ。少なくとも俺はそう思ってるし、それに」

自分でも笑えるくらいムキになってて、そりゃジーナさんが俺を子供だって言うのも仕方ないかもしれない。
でも、分かってほしい。どうしても伝えたい。伝えたところでどうなるかなんてわかんなくたって。

「……もしほんとに雪がキレイなだけのものじゃないとしても、それでも俺はジーナさんのこと好きだし」
「ケイがもっと大人になって、まだそう思っていられるのならいいんだけれど……ね」

ふっと寂しそうな笑顔を俺に向けたジーナさんはそのまま、遠くから聞こえてくる軍用車のエンジン音に引かれるようにせわしなく視線を動かし……俺から離れていった。
その背中を見つめることしか出来ない俺に、ジーナさんの残した言葉の意味なんて深く考えることが出来るわけもない。そもそも、考えられるほど頭よくねーし。
でも――はっきりと、分かってることがひとつ。
今、俺の頭ん中はジーナさんって言う雪がずっと降り積もり続けている。
太陽の光を浴びてきらきら輝いてる雪みたいな一面の銀世界。この世界をキレイだって、大好きだって思えるままの俺でいたいって気持ちは多分……そう簡単には、変わらないってこと。


余談。

「とりあえずこれ、先輩たちから差し入れ」
「ん……わざわざありがとな、フェデリコ」
「いいよいいよ、今日は俺も暇だったから。とにかく、早く治せよ。先輩たち、みんな心配してたんだから」

廃寺よりはずっとあったかいはずのアナグラに帰った後もなんか寒気が抜けなくて、医務室で熱測ってみたら結局ほんとに熱があって――
結局こうやって、寝込んだ俺にフェデリコが食い物とかなんとか色々持ってきてくれるなんて事態に陥った、わけで。

「にしても、カッコつかないよなあ」
「まあ、風邪くらいならケイだけじゃなくて皆引くんだからそんなに気にしなくても……」
「そーゆーことじゃなくて……ま、いいか」

風邪治してジーナさんに会ったら何言われるのかなあ、なんて結構しょーもないことを考えながら俺はごろんと寝返りを打ってフェデリコに背中を向けることしかその時の俺には出来そうになかった。

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