Dream | ナノ

Dream

ColdStar

望んでほしいことがある

「俺、さ。時々思うんだ」

いつもみたいにミッションに出て、いつもみたいにアラガミを倒して。
そんで、いつもみたいにミッションが終わって、迎えが来るのを待ってる間。
いつもみたいに、ひとりでどこか遠くを見てるジーナさんの背中に声をかける――
俺の声に振り返ったジーナさんはいつもみたいに、薄くだけだけ笑ってみせた。感情を隠すようなこの笑顔は、最初は哀しかったけど――見慣れてしまえばそれもまたなんだか魅力的だなんて思っちゃう辺り俺やっぱり結構ジーナさんに参ってるのかもしれない。

「それ、カレルやシュンが聞いたら『やっぱりケイはバカだった』って言うような内容じゃない?」
「ないない。もっと真面目なこと」

こんな風に言われるのももう慣れた気がする。悪気があって言ってるわけじゃなくて……続く俺の言葉を封じようとする、ジーナさんのいつもの手段。
ジーナさんが俺の言葉を真正面から受け止めてくれていないのかと思うとちょっと寂しくなることもあるけど、けどそれでへこたれるような俺じゃねーし。
それに、これはどうしてもジーナさんには伝えておきたかった――初めてジーナさんに出会った時からずっとぼんやりと感じていたこと。
ひとりで考えてるだけで心の中に留めておいたらそれが「ほんとのこと」になっちゃいそうで――口に出したのは、それをいつもみたいにジーナさん本人に笑い飛ばしてほしかったからなのかもしれなくて。

「ジーナさんはそんなに弱くないって知ってるけど、でも」
「……でも?」
「俺が一人前の神機使いになるまで死なないで……俺の前からいなくなったりしないで」

俺の感情を誤魔化すように浮かべていた笑みが、その場でさっと掻き消えた気がした。
急に真剣な表情になったジーナさんは、まるで俺の……笑い飛ばしてほしいって気持ちを全て否定しようとしているようにさえ見えてた。
けど、それでも俺はこの考えをずっと黙ってることなんて出来なかった。じわじわと俺の心を、それが当然だとでも言うように染めていく薄暗い気持ち――
なんでだろう。ほんとになんでだかわかんねーけど……ジーナさんは時々、ほんとうにふっと俺の目の届く所からいなくなっちゃいそうな気がして。
親友が死んだって知らせを聞いた時とか、神機使いになった友達が帰ってこなかったとか、暫く会ってなかったエリックがいつの間にかアラガミに喰われてたとか。その時に感じてた、まだ神機を使う事すら知らなかった俺の無力感を――今更ジーナさんを失うことで思い知らされたくない。
……なんて、こんなのほんとにただの俺の我が侭だけど。
我が侭なのは分かってるから、返って来たジーナさんの声がどこか冷たかったような気がしたのもなんとなく理解できてたのかも、なんて。

「……そんな甘いこと言ってる場合じゃないでしょう?私たちの仕事は何?」
「神機使い……」

それだけ答えるのが俺にはやっとだった。
こうやって、先輩なんだってことを押し出してくる時のジーナさんの声は本当に冷たい。
きっとそれは、俺よりもずっと長い間神機使いでい続ける人がこれまで生きてくる為に必要だったこと。それはわかる。
でも……こうやって冷たい声を出すジーナさんがなんだかとても寂しい存在みたいに思えて――無性に、苦しかった。

「そう。アラガミと戦うことが私たちの仕事である以上、私たちは常に死と隣り合わせにある。……たとえ私が死んだとしても、それでもケイは戦い続けなくちゃいけない。分かってるでしょう」

分かってるよ。
分かってるけど、でも……

 ――失いたくないと思うのはそんなにいけないことかなあ?

その問いかけは言葉にはできなかった。
ジーナさんの存在を否定してしまうような気がして。
大好きな人に、俺の勝手な考えを押し付けてしまうだけみたいな気がして。

「……ジーナさん」
「今のケイに必要なのは……仲間を失ってもくじけたりしない『覚悟』なのかもしれないわね」

ジーナさんの言葉に重なるように聞こえるエンジン音――迎えが、来たみたいだ。
俺の視界から少しずつ遠ざかっていくジーナさんの背中。……そう簡単に消えたりしないって信じてるけど、それでも滲ませた儚さが俺の胸をぎゅうっと締め付ける。

「ジーナさん」

聞こえないように、小さく呟いてみた。
覚悟が足りない俺の、子供じみた我が侭、願い。きっと何度口にしたってジーナさんは同じような答えしかくれないんだろう、けど。

「同じように望んでほしいって、思うのは贅沢なのかな」

もしジーナさんが俺を失いたくないと望んでくれるなら、俺はきっとどんな場所でも生き続ける事が出来る。
もしもそう望んでくれるなら、覚悟だってなんだってしてやる。

……こんなことを言ってるから、甘いなんて言われるのかな――俺。

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