Dream | ナノ

Dream

ColdStar

傾いた天秤

なんでだったんだろうな、って自分でも思う。

母ちゃんも姉ちゃんも妹もそうだったから胸でかい女ってなんとなく怖えーし、そういう意味で怖いとは思わなかったってのは確かにある。
……ってのを口に出したらツバキ教官に「全方向に失礼なことをさらっと言うな」って説教された上で「あんたはどこまでバカなんだ」って櫻庭先輩には呆れられて、それを後ろで見てたサカキ支部長代理に大笑いされたけど。
この事件以降俺の中の「三大胸でかくて怖い女」にツバキ教官と櫻庭先輩加わって五大胸でかくて怖い女になったりしたけど……そんなん口に出したら今度は笑えるくらい櫻庭先輩溺愛してるソーマさんにも怒られそうだから二度と言わねえ。
あと、戦ってる姿がほんとにカッコよかったって思ったのもある。
俺だって選んだ銃はスナイパー。でも、俺はどっちかっつーと剣で戦ってる方が性に合ってる気がするし銃だってあんなにカッコよくまるで自分の一部みたいに使いこなしたり出来ねーし。それに戦ってるときにほんとに楽しそうで、俺はまだ目の前の敵を倒すのに必死で戦いを楽しむ余裕なんて持てねーし、そういうとこすげー……いいな、って思ったってのもある。
あと、もしかしなくても第三部隊で一番年下ってことになる俺をほんとに可愛がってくれたってのもある。
フェデリコは先輩だけど年も近いし友達みたいなノリで接することが出来て楽しいからまあ置いといて、シュンさんとかカレルさんはどーにも俺のことを面倒がってるっぽいフシはある。そんな中で、ちゃんと先輩として俺に色々アドバイスくれたりスナイパーの使い方教えてくれたり、そう言う……冷たそうに見えて優しいとこにぐっと来たのかなーとか思ったりする。

けど、じゃあ何が一番の理由だったのかって聞かれたら俺は多分答え出せないなって思ったりする。
要するに、なんでジーナさんじゃなきゃいけなかったのか……俺にも、まだ良く分かってない。

「ほんと……なんで俺こんなジーナさんのこと好きになってんだろ?」
「それを当事者の私に聞くあたり、ケイってほんとに……バカよね」
「ちょ、ジーナさんまでそれ言う!?」

自然と唇尖らせてる俺、自分で考えてもほんとにバカだしガキなんだと思う。
それに引き換え、俺の話を呆れながらも聞いてくれてるジーナさんって……大人だな、って思う。そんな大人なジーナさんがマジでカッコいいなって思って……正直言えば惚れ直したりとか。

「……人の心なんて誰にも分からない。ケイに分からないものを私に分かれって言ったって無理」
「だろーね。俺にだって分かってるのは、ジーナさんのことめちゃくちゃ好きだってことだけだもん」
「どうしてそれを軽々しく口に出しちゃうのかしらね」

はぁ、とため息をついたジーナさんの横顔はどこか悲しそうに見えていた……正直言えばその理由はなんとなく分かってる。
ジーナさんが胸が大きく開いた服を着てるのは、弱点である心臓を曝け出すことでそれだけ真剣に戦ってるって覚悟の表れなんだって誰かが言ってた。
それだけ命を懸けて戦ってるジーナさんにとっちゃ、俺が何言ったって邪魔になるだけなんだろうな、なんて。

「……はっきり言ってくれていいんだけどさ、ジーナさん俺のこと嫌い?」
「嫌いだったらこうやって呑気に話したり一緒に食事したりしてると思う?」

誤魔化すつもりで言ってるわけじゃなく、飄々と語るジーナさんの言葉は確かに尤も。
尤もこうやって一緒にメシ喰ってんのだって、ジーナさんが先にいたから俺が勝手に押しかけただけではあるんだけどさ。

「でも好きってわけじゃないんだよなあ」
「そうね、後輩としては好きよ。でも……」

でも、「オトコとして」好きにはならない。
多分それがこの先も変わることのない、ジーナさんの答え。
何が足りないのかとか、どうすればジーナさんの「覚悟」の邪魔にならないのかとか、そんなことはとっくに考えた。30分くらいだけど。
でも答えは出なかった――だったら、俺に出来ることなんてひとつしかねえし。

「けど俺諦めねーよ?いつかジーナさんがオトコとして俺を見てくれるように、超カッコいい神機使いになるまで諦めねーし!」
「……ほんとに、ケイってバカよね」
「バカで結構!」

言い切った俺の言葉にジーナさんが僅かに口の端を上げる。形作られてたのは……苦笑い。
そのまま、食事を終えたんだろうジーナさんは食器を持ってテーブルから立ち上がる。俺の耳に、聞き間違いかもしれない些細な言葉を残して。

「突き抜けたバカは嫌いじゃないけど、ね」

嫌いじゃないならいつか大逆転が起こるかも知れないわけで、だったら諦めるなんてのは性に合わない。
だったら俺に出来るのは……どう頑張ってもただのガキでしかない俺と誰がどう見てもオトナなジーナさんの、自分でも分かるくらいに釣り合いの取れてない天秤を少しでも平らに近づけること、なんて。
6歳年下とか、ジーナさんよりチビだとか……自分でどうしようもないとこはあるけど、負けたくない。そういう色んなものに。
ジーナさんの隣に立っても恥ずかしくないカッコいいオトコになる。それを目指して、俺はスープの皿に手を伸ばし……なみなみと満たされた、あんまり好きな味じゃないそれをスプーンで掬って口の中に突っ込んでいた。

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