Dream | ナノ

Dream

ColdStar

モウスィブロウ

任務を終えて戻った後、特にすることもないので私とコウタはエントランスに残り他愛のない話を続けていた。
コウタの家族の話だとか、互いが最近受注したミッションでの失敗談だとか可笑しかった話だとか。どうも、コウタに対しては隊長と言うよりは同期であると言う態度で気安く接してしまうのも不思議な話だ。

「まぁ、何て言うのかな……そりゃあ俺、実力としては藍音に負けてるかもしれないけど俺なりにできることはしてると思うし……不思議な話なんだけど、なんとなく俺が頑張ろうって思ってるときほど俺の神機もそれに応えてくれる気がするんだよな」
「神機にも心が宿る可能性があるというのはレンの一件で新たな説として提示されているからな。実際、コウタの気のせいなんかじゃなくコウタの神機があんたの意思を汲み取っているのかもしれない」
「だといいんだけどなー。俺の神機、なんかこう……使い込まれてる感じがするけど、前の持ち主にもきっと大事に使われてたんだろうなってのがなんとなく分かるから、俺も前の持ち主と同じくらい、じゃないな。もっともっと大事にしてやんなきゃって思ってるんだ。それが神機にも伝わってるといいなあとかは思ってる」

コウタの呟きに、私は大きく頷いただけだった。
私だって自分の神機には愛着を持っているし、リンドウさんとレンの一件から今以上に自分の神機を大切にしようと感じていた。私にとってはこの神機が、一番の戦友と言うことになるのだから。
何気なくそんなことを考えていた私と――そしてコウタの耳に届いたのは、想像もしなかったような人物の声。

「そこまで大事にしようと思っているのならばその想いは必ず神機には届いているだろうな」

声に顔を上げると、立っていたのはツバキさん。
彼女らしくもなく、どこか穏やかな笑みを浮かべているようにさえ見えるその表情に私は一瞬だけ面食らいはするものの……目の前にいるコウタは別にそんなことはないらしい、ツバキさんの言葉に心から嬉しそうな笑みを浮かべた。

「マジで?だったらいいなぁ。前の持ち主に比べてお前は出来が悪い!とか思われてたら嫌じゃん、やっぱり」
「それは流石に私では判断できないが、他人から受け継いだ神機を大切に使おうと思っているコウタの気持ちは必ず届いている……きっと、神機も前の持ち主も喜んでいるだろうな」
「前の持ち主がどんな人だったのかは俺は知らないけど。……でももしその人が生きてて、伝えられるとしたら言いたいんだ。俺、絶対この神機をすげー大事にするって。一緒に戦って、最後まで生き抜くって」

きらきらと子供のように瞳を輝かせたコウタの言葉に、ツバキさんは深く頷いていた。
その表情がどこか嬉しそうに見えたのは私の気のせいなのだろうか……そんなことを考えている時に、目の前で鳴り響く通信機の音。ポケットから通信機を取り出すと、コウタは何事か応答して一言二言話すとすぐに再び通信機をポケットにねじ込んだ。

「タツミの兄ぃが飯奢ってくれるらしいから俺行ってくるよ。そんじゃな藍音、それにツバキさん」
「ああ、たらふく喰ってこい」

コウタの背中を見送り、ツバキさんも用は終わったとばかりに私に背を向ける。
――だが、本当は私は知っていた。ツバキさんの言葉の意味を。

「ツバキさん、なんですよね」
「何の話だ」
「コウタの神機の、前の持ち主です」
「知っていた、か。ソーマから聞いたのか?」

ツバキさんの言葉に、私は深く頷く。
ソーマはまだツバキさんが神機使いだった頃を知っている。未だ少年だったソーマはその頃のツバキさんと一緒に戦っている――
だからあるとき、こっそり私に教えてくれた。「コウタの神機に見覚えがあると思っていたがあれはツバキが使ってたものだ」、と。

「……コウタはバカだが見所はあるな。藍音、お前もそう思うだろう」
「そうですね。同期で入隊したから、近い場所で見てきているからこそ……私もそう思います」
「ああ。私の神機を託すことになったのがあいつでよかった」

しみじみと呟いたツバキさんの言葉に、私は深く頷いていた。
きっとツバキさんもまた、自分が使っていた神機に深い愛着を抱いていたのだろう。その愛着ごとコウタが受け継いだことをきっと誰より喜んでいるのはツバキさん自身。

「私は幸せだ。お前やコウタのような部下に恵まれて」
「そのツバキさんの幸せを壊さないように、私も頑張ります」

隊長になったときからずっと心の中で思っていたこと。
誰一人仲間を欠けさせてはいけない。手の届く範囲くらいは私が守り抜かなければいけない。
今だってその気持ちは変わっていない。だが、私の手の届く範囲にあるものは私にとって少しずつ重くなってきている。
私を、姉のような存在だと呼び慕うアリサ。今の自分がここにいるのはみんなのお陰だと、私たちを見守りながらも感謝を向けてくれるサクヤさん。バカなりに一生懸命で、それだけでなくツバキさんの想いまでも背負ったコウタ。そして、どんな時でも私の一番近くにいてくれる最愛の人で大切なパートナーであるソーマ……
第一部隊だけじゃない。私が共に作戦に出ることのあるこのアナグラにいる全ての神機使いを、私は守りたい。彼ら一人一人が背負っている想いごと。
ただじっとコウタの去って行った後の扉に視線を送っていたツバキさんを見遣りながら、私はその決意を新たにしていた――

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