Dream | ナノ

Dream

ColdStar

出会いと悪戯

アルダノーヴァが再びエイジス島に現れた、なんて情報を聞き逃すわけにも行かず、私はソーマとコウタ、それにアリサを伴ってエイジス島へと赴いた。
幸い、と言うかなんと言うか……ハンニバルへの対策と言うことで神機を強化していたこともあり、以前に戦ったときほどの苦労はせずにアルダノーヴァを排除することは出来たのであるが……ハンニバルの対策に追われる中、アーク計画の象徴とも取れるようなアルダノーヴァの復活と言う情報は私達を悩ませるのに十分過ぎるものであった。
だが、その悩みも全て討伐を終えてアナグラに戻った私達を迎えたツバキ教官の言葉で吹き飛ばされることになる。

「戻ったか、丁度いい。藍音、お前にも今日から配属された新人を2人紹介しよう」

ちらりと視線を移すと、そこにいたのは確かに見慣れない神機使いが2人……それと、レン。
今ツバキさんは確かに「2人」、と言ったがレンの紹介は割愛するつもりなのだろうか。もっとも、彼の言葉通りならばレンは数日前に既に配属されていたわけで、正式に紹介されなかったのも私がハンニバルの一件で戦線を離脱し、2,3日とは言え入院を余儀なくされていたことを考えれば――レンが配属されたのはその間の出来事なのだから、私が正式にレンの紹介を受けていないのは当然なのかもしれなかった。
それに、レンほど頭が回るのなら私には既に挨拶を済ませているとツバキさんに告げていることも考えられるわけだし。
そんな私の考えを他所に、どこか緊張した面持ちのまま2人の新人は私の方を真っ直ぐに見つめてくる。視線を捉えるだけで、彼らがまだどこか固くなっているのが見て取れて……流石に笑い出しはしなかったが、なんだか可笑しくなってしまった。

「本日付で第二部隊に配属となりました、アネット・ケーニッヒと申します」
「同じく第三部隊配属となりました、フェデリコ・カルーゾです」

しゃっきりと伸びた背筋も、言葉の使い方も、どこか緊張したような表情も……その全てが妙に懐かしく感じられる。
まだ私が入隊してから半年ほどしか経過していないはずではあるが、それでも……自分が新人として極東支部に入隊し第一部隊に配属されたときのことをふと思い出したりして。
そう考えれば、配属された当日にアナグラが襲撃を受け、倒れそうになった私を助けたレンは随分と堂々としていたものだ。ちらりと、フェデリコの隣あたりに立ったレンの方に視線を送るとレンは先日そうしたように屈託のない笑みを私に向けるだけではあったが。

「第一部隊隊長、櫻庭藍音だ。所属する部隊が違うとは言え、私達第一部隊とあんたたちが所属する防衛班は隊員を貸し借りする程度には密接な関係にある。共に戦場に出ることもあるだろう、その時はよろしく頼む」
「はい」
「はいっ」

返事をした後のアネットとフェデリコはまだどこか表情が固い。緊張するなと言う方が無理な話ではあるが……並び立った2人の姿を見て私が思い出していたのは自分が新人として配属されたときのこと。
そう言えば今こうやって2人の神機使いが並んでいるように、あの時私の隣にいたのは――
思い出したと同時に、そのときの懐かしい記憶が言葉となって私の口から滑り出し始める。

「それと。『同期』の絆は自分で思うより強い――私にとってもそうだ。アネット、フェデリコ。あんたたちも互いをいいライバル、いい友人として支えあっていくといいだろう」
「藍音、その台詞はこの2人に言うんじゃなくコウタに言ってやったほうがいいんじゃないか」
「今更こんな恥ずかしいことをコウタに言えるわけがないでしょう」

勿論ツバキ教官にはソーマとの関係については話してあるし、そういう意味で「特別」なのはソーマだけではあるのだが……それとはまた違った意味で、神機使いになってから文字通りずっと一緒にやってきたコウタを大切に思っていること、ただそれを表に出すことはないことを全部分かっていてそんなことを言うのだからツバキ教官も存外人が悪い。
私の苦笑いを見て取ったのか、ツバキ教官は小さく笑ってからひとつ咳払いをしてみせた。

「何にせよ新型神機の戦術は私よりお前の方が詳しいだろう。できる限り面倒を見てやってくれ」
「分かりました」

ツバキさんがこんなことを言う時は大概、私にならできるだろうと信頼を寄せてくれている結果だと言うことを私も知っている。
それに、この……ほんの僅かな希望にであっても縋らなければならない現状に於いて新人が増えることが単純に喜ばしくもあり、また
その言葉には大きく頷きながら、私は再びレンの方へと視線を送った――その笑顔がどこか寂しそうに見えた理由は一体何なのか。
レンがその笑顔の裏に何を隠しているのか、それは私には分からない。

そうして新人との面通しを終えてエレベーターに乗り込もうとしたところで……

「お、丁度良かった。藍音、アルダノーヴァの討伐で疲れてるだろ?これは、いっつも頑張ってる櫻庭隊長への感謝の印ってことで」

先ほどの面通しの最中にふと思い出した張本人、コウタが何やら意味ありげな笑みを浮かべながら私に近づいてきた。
勿論、彼が手にしたピンク色の缶に見覚えがないわけではない。そして、その缶の中身に対して他の神機使い達が下した評価のことも。
大体が、先日口にして酷い目にあったと延々文句を言っていたソーマの言葉を私がそう簡単に忘れるとでも思っているのだろうか。

「とりあえず、これは俺が奢るからさ。ぐーっと飲んじゃってくれよ」

私が全てに気付いた上で考えていることになどきっと気付いてはいないのだろう。にやにやと笑みを浮かべながら押し込むように渡された初恋ジュースの缶を一度しっかりと握ると、そのまま腕を振り上げる。
周囲に他の神機使いがいる状態でこのまま行動に移したら、第一部隊の隊長は隊員を虐待しているなんて嫌な噂でも流されかねないが……少なくとも、「隊長と隊員」ではなく「同期の神機使い」として考えれば私とコウタはこのくらいの仕返しが許される間柄なのは間違いないわけで。
私の行動の意味が分からないのかぽかんとしているコウタに向けて、私は無言のまま押し付けられた缶を投げつけてやった……放り投げた缶は、ものの見事にコウタの額にクリーンヒット。
自分でも驚くほど澄み切った金属音が鳴り響き、初恋ジュースの缶はごとりと重い音を立ててコウタの足元に落下してころころと転がる。

「痛ってー!いや藍音、何も投げるこたないだろ!」
「これはソーマの分だ。そう簡単に私を嵌められると思うな」
「なんだよー、冷やしカレードリンクの仕返しがしたかったのに!」
「冷やしカレードリンクは結局結構気に入ってたじゃないか、コウタ」

それが事実であるだけにそれ以上コウタが言い返してくることはない。
――アネットとフェデリコにああ言いはしたが流石にあの2人のどちらかが初恋ジュースの缶を相手に投げつけている所など想像出来そうにもなく、それがなんだか可笑しくも思えてきたりして。
だがそんな考えは結局口にすることはなく、額を押さえたままのコウタの足元に転がった初恋ジュースの缶を拾い上げると私はそのまま歩き出した。
流石にこんなものとは言え、飲み物を粗末にするのは気が引ける――とは言え、ソーマからは「飲むな」と釘を刺されているので自分で飲むわけにもいかない。さてどうしたものか、なんてことを考えながら私はそのまま踵を返した。
そもそもが、コウタから足止めを喰らってしまったとは言え私にはエレベーターに乗ろうとしていた理由がきちんとある。
先刻の面通しの後、ほんの少し気になっていたことがあって……未だ文句を垂れているコウタの声を背にエレベーターに乗り込むと、私はごくごく当たり前のように神機保管庫へと向かっていたのだった。

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