Dream | ナノ

Dream

ColdStar

儚き想い

「最近時々、リンドウのことを思い出すの」

ミッションからの帰りの軍用車の中、急にサクヤさんがそんなことを言い出した。
リンドウさんの腕輪が見つかってから今日まで、もうそれなりに日は経っている。勿論それでもサクヤさんはリンドウさんのことを忘れる日などなかったのだろうが、急にそんなことを言い出すのには何か理由があるんじゃないだろうかなんて思って私は黙ったままサクヤさんの方を見つめていた。
私の視線の意味は分かっているのだろう。サクヤさんは視線を伏せたまま、ぽつりぽつりと言葉を繋いでいく。

「勿論、忘れてるわけじゃないのよ。でも急にリンドウが夢に出てきたり、ふとした瞬間に何故かリンドウが近くにいるような気がしたり……リンドウがいなくなってからこんなことを考えたことなんてなかったのに、急にどうしてなのかしらね」
「最近少し落ち着いていた、と言うのもあるんじゃないでしょうか。リンドウさんの腕輪が見つかってからあれこれありすぎてそんなことを考える暇もありませんでしたし」
「そう、なのかしらね……ただそれだけだって言うんならいいんだけど」

ため息をついたサクヤさんは、アナグラのほうへと向かってゆっくりと流れていく景色をじっと見つめている。

「藍音はもう気付いてるわよね……以前ほど大型のアラガミの目撃情報が出なくなったこと」
「ええ。ノヴァがいなくなった影響なのか、それとも何か他に理由があるのか……そこまでは分かりませんが」
「私がなんだか急にリンドウのことを思い出すようになったのもなんだかそれが関係あるような気がしてならないの。私の考えすぎならいいんだけど、もし……」

そこでサクヤさんは言葉を切る。伏せたままの視線に溢れているのは、私から見てもはっきりと分かるほどの不安。
少しは平和になった気がするとは自分でも思っていたはずなのに、どこか胸の中に残るざわめきの意味はまだ私たちには分からないまま……そんなことをぼんやりと考えている合間に、サクヤさんは一度切った言葉をゆっくりと繋いでいく。

「……もしこれが考えすぎなんかじゃなくて、本当にまた何かが起ころうとしているとしたら……なんて、今考えても仕方ないのは分かっているんだけどね」
「何かが起ころうとしているとして……何があっても、私はアナグラの、部隊の皆を守りますよ。何があったとしても」
「その決意は頼もしいけど、無理はしちゃ駄目よ?ソーマに私と同じ苦しみを与えたくはないでしょ」

サクヤさんが何を言いたいのかは分かる……私は黙ったまま、頷くことしかできない。
だが、私は第一部隊の隊長である以上――一度、その立場は捨てても構わないと思ったのはシオのためだった。シオがいない今、私はやはり第一部隊隊長としての責務を果たさなければならないのだ。

そんなことを考えている合間に軍用車はアナグラへたどり着く。ミッションの完了報告のためにエントランスへと向かうと、ソファのところにいたソーマが私に視線を向けた――その視線が私を呼んでいることは明らかだと分かる。
私はそのままソーマへと歩み寄ると、黙ったままその隣に座った。それを確かめたかのようにソーマは周囲には聞こえないように小さな声で言葉を紡ぎ始める。

「本部の人間が今回の一件について探ってるらしい」
「だろうな。とてもじゃないがあの説明で納得させられる気がしない」
「もうすぐアナグラに新人が入るらしいが、そいつらにも気をつけろよ。これは俺も同じだが親父の特務を受けていた関係上、藍音が『何も知らない』と思うほど本部の連中も馬鹿じゃねえ」

私が頷くと、分かればいいなんて短く言ってソーマは立ち上がった。

「とりあえず、色々後始末して来い。それと、この後何か予定あるか」
「予定?あんたと一緒に食事でも出来ればそれでいいと思っているが」
「丁度いい、俺も同じ予定を立ててたところだ」

先ほどまでの真剣な口調とは打って変わってのそのやり取りに、私たちの間には笑顔がこぼれる。

 ――ソーマに私と同じ苦しみを与えたくはないでしょ……

不意にサクヤさんの言葉が脳裡を過ぎり、私はソーマを視界に移したまま……意識だけをソーマから遠ざける。
この、見せ掛けかもしれない平和がいつまで続くかはまだ分からないけれど――今の私にできることは、現れたアラガミを斬り伏せることとそして、自由時間にはソーマを目いっぱい愛すること。ただ、それだけ。


その翌日。

ツバキさんとちょっとした打ち合わせをする為に支部長室に向かった私の耳に届いたのは、調査隊からツバキさんに為されたとある報告。
廃寺のあたりでプリティヴィ・マータが他の大型と思われるアラガミに喰われているのが見つかったということ。喰ったアラガミについては詳細が不明であるということ、警戒を厳にした方がいいということ――
この『報告』が秘めていた意味は、そのときの私には当然分かるはずもなかった。

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