Dream | ナノ

Dream

ColdStar

すこしずつ、こうやって

「珍しいな、藍音とソーマが一緒に出てくるなんて」

明るく笑うコウタに頷きを返し、私とソーマはちらりと互いの顔を見合わせあう。
……一緒に登場も何もついさっきまでソーマの部屋に一緒にいた、と言うよりも昨日の夜からソーマとずっと一緒だったわけで……そんなことをコウタが知る余地もないし態々喧伝する必要もどこにもないからいちいち言いはしないものの。
一緒にいる時間が少しずつ長くなっていくうちに、「一緒にいる」だけでは足りなくなって……ソーマと私の間に男女の関係が持たれたのはある意味自然な話なのかもしれない。
そこに至るまでにソーマは随分と悩みはしたらしいが……それについてはまあ、今はどうでもいいだろう。
ともあれ、戸惑いながらも私とソーマは少しずつ距離を縮め、その関係を少しずつ変えてきていた。そもそもがここに至るまでに遠回りをしすぎていたんだから、そんなに一足飛びに関係が変わるような事がないというのも分かっているつもりだったし。

そんな事を私が考えていると知ってか知らずか。コウタは私のほうへとちらりと視線を送り、それからいつもの明るい笑顔のままのんびりとした口調で呟く。

「って言うかさ、この3人で一緒にミッションってのも久しぶりな気がするよなー」
「最近は大型のアラガミの目撃情報が減っていたからな。小型のアラガミが複数出てくるくらいなら多人数を割く必要もないし」

私が返した言葉に、コウタの表情が僅かに曇ったような気がするのは私の気のせいなのだろうか――本当に表情を曇らせていたとしてもそれは一瞬の出来事。次の瞬間にはコウタの表情は私も見慣れたいつもの明るい笑顔に戻っていた。

「ああ……そうなんだよな。ノヴァの一件から大型のアラガミが減ってたからちょっとは平和になったのかなって思ってたけど……まあ、堕天種ったってコンゴウくらいならそんな大した大きさじゃないんだけどさ、平和になった気がしてたのは俺の思い込みだったのかなーとか」

コウタの言葉が、ここ数日私とソーマの間で何度も繰り返されていた会話と同じだったことで私とソーマは思わず顔を見合わせる。その様子を不審に思ったのだろうか、コウタは軽く首をかしげてこちらを見ていた。

「どうした?俺なんか変なこと言ったか?」
「いや……コウタも気付いていたんだな、と思って」

私の言葉にコウタは不服げに唇を尖らせる。私の言葉の裏にあったものに気付いているのだろう――そして、私が思っていたことをそのまま、コウタは言葉として私に投げ返してくる。

「俺流石にそこまで自分がバカだと思ってないし」
「自覚のないバカが一番タチが悪い」

付け加えたソーマの言葉に私は思わず小さく噴き出し、コウタは僅かに拗ねたような表情を浮かべはしたものの……何かを思いついたように、ソーマの方に真っ直ぐ視線を送った。
その視線の意味が分からないのだろう、ソーマはコウタの方を怪訝そうな眼差しで見遣っている――怪訝だと思っているのは何もソーマだけではないのだが、その眼差しに気付いたらしいコウタはにぃと笑顔を浮かべて言葉を繋いでいった。

「なんかさ、あの一件の後……ソーマ、丸くなった気がする」
「別に、そんなことは」
「ソーマは気付いてないかもだけどさ。俺から見てるとソーマはぴりぴりした所がなくなった感じがするなーって……シオの一件の事もあるだろうし、ソーマが気にしてるんじゃないかなとか思ったから、直接言っちゃっていいのかどうか凄い悩んでたけど今話しててほんとに思った」

確かに考えなしな所はあるけれど、人の和を大切にするコウタがソーマの変化を感じ取っていたのは自然な話なのかもしれない。
そんなことをふと思い、ソーマの様子をちらりと横目で窺った――コウタにそんな指摘をされると思ってなかったのだろうソーマは言葉を失っている様子ではあったが、いつものようにふんと小さく鼻を鳴らして……私たちに先んじて歩き始めた。

「くだらん話をしてる場合じゃねえ。行くぞ」
「あ、待てよソーマ」

歩き出したソーマを、コウタは小走りで追いかける。私はその一歩後ろあたりを歩きながら進んでいくソーマの背中を見ていた。
が、ソーマが不意に足を止めてこちらを振り返る。ソーマが立ち止まると思っていなかったらしいコウタは勢い余ってソーマにぶつかりそうになっていたがすぐに体勢を立て直して、急に立ち止まったソーマを不思議そうに見上げている。

「どうしたんだよソーマ」
「……藍音、お前から見てどうだ」

何が、と問い返すまでもなくソーマが聞きたいのはさっきコウタが言っていたことなんだろう。やはり気になるのか、なんて私の口の端には小さく笑みが浮かぶ。

「私に聞いたって正確な答えは出ないだろう。他の誰かに接する態度と、私に対しての態度が違うのは当たり前なんだから」
「それもそうか」
「ただ……そのことを差し引いても、ソーマは人当たりが柔らかくなったんじゃないか、とは思う」

私の答えに対してソーマは特に反応するでもなくそのまま歩き出した。私の言いたいことをソーマはきっと理解してくれただろう、そう信じて私も少し歩幅を上げ、ソーマの隣で歩き始める。
最初はそんな私とソーマの一歩後ろあたりを歩いていたコウタだったが、私の隣までやってくるとじっとこちらに視線を送ってきた。その視線の秘めた意味など、私もソーマも特に気にかけてはいないが……ぽつりと、コウタが小さく呟いた声は耳に届く。

「……ソーマもそうだけど、藍音もなんか雰囲気変わった気がする」
「そうか?」
「なんて言うんだろう、もっとこう……ソーマが丸くなったからって言うのもあるかもしれないけど、ソーマと接してる時の藍音ってもっと必死っぽかったって言うか」
「必死になる必要がなくなったからだろうな」

それだけを答えて隣を歩くソーマを見遣り、ソーマは黙ったまま歩き続けている――意味ありげに、私だけに笑みを向けて。
必死にならなくても今のソーマは私に、皆に対して心を開いてくれているのを私は分かっている。だから。

こうやって、少しずつ変わっていくんだろうか。
あの激動の毎日も、何事もなかったように何気ない日常に塗り替えられていくのだろうか。
私と歩幅を合わせて隣を歩くソーマの横顔を見ながら、そんなことを考えている。

何気ない日常が激動に変わるまで、あと数日――

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