Dream | ナノ

Dream

ColdStar

足音

「シユウ型接触禁忌種、セクメト……こんなの、出てきたことありましたっけ?」
「目撃情報はあったんだ、だがたまたまアーク計画騒動のあれやこれやで第一部隊の手に回らず他の神機使いが討伐してきたという話だけは後から聞いてはいたが」

受注したミッションの為、地下鉄跡に向かう車中でアリサが呟いた言葉に私は返すともなく言葉を返す。
ここ暫くは小型のアラガミだったり、大型のアラガミでも大した強さではないものばかりだったりだったのだ。急にそんな強力なアラガミの目撃情報があったのでは、アリサが不安を覚えるのも無理はないかもしれない。

「……やっぱり、おかしいよな色々と。ちらっと聞いたんだけど、こないだも廃寺のあたりでプリティヴィ・マータが他のアラガミに喰われてたんだろ?」

コウタの呟きに、私は小さく頷いてみせる。
ツバキさんが受けていた報告からサカキ博士がすぐに指示を出し、状況を調査したのだがどうしても「犯人」となるアラガミの正体はつかめないまま。
神機使いの間では誰も見たことのないようなアラガミが現れたのではないかなんて噂話程度に為されていた会話が、決して大げさでもなんでもないのだと知らしめるような未知のアラガミの足跡――この間までの空気とはうってかわって、アナグラに様々な緊張感が走っているのが現状。
ついこの間、平和になった気がしているなんて話をしていたのだ。それが急にそんな話を持ち込まれたのでは、コウタだって戸惑うのは当たり前、だろう。

「ああ。それも、喰ったアラガミの正体は調査班や研究班が調べてはいるものの未だ掴めていないらしい。喰い方の特色などが、今までに目撃されていたどのアラガミとも一致しないんだそうだ」
「なんだか、不気味ですね」
「だがどんなアラガミが出てこようと、私たちのやることなんてそんなに変わらないだろう」

あっさりと言い放った私の言葉に、ソーマは私の隣で大きく頷いている――そこから暫くは、誰も何も言うことなく車は地下鉄跡に向けて走っていく。
それ以上をどう言葉にする必要があるだろうか。何を言っても結局私たちにできることなんて変わらないし、それならばコウタやアリサに無駄な不安を抱かせたくはない。
私のその考えを察しているからだろうか、コウタやアリサはそれ以上何も言うことはなかった――そんな重苦しい沈黙の中……それまで黙ったままだったソーマがゆっくりと口を開いた。

「俺もお前たちもいるんだ……そんなビビるような事は何もねえ。違うか」

ソーマの言葉に、私は黙って頷くだけ――だが、アリサはその言葉に驚いたようにソーマを見遣り、コウタは意味ありげに笑みを浮かべてソーマの方を見ているだけ。
……コウタにはソーマの変貌ぶりについて問われ、私とソーマの関係を話していた。そういえばアリサにはまだ話していなかったような気がするが……アリサがどこか驚いているように見えるのはその聖なのだろうか。
私がそんなことを考えていると知ってか知らずか、しみじみとアリサが一言だけ口にする。

「……なんか、ソーマ最近……丸くなりましたよね」
「気のせいだろ」

短く言い放って視線を窓の外に移したソーマを横目だけで見遣り、私は車内に視線を戻した。意味ありげな笑みを浮かべたままのコウタはその視線をソーマから私のほうへと送っていた――意味ありげな眼差しは何も変えることなく。

「どうした、コウタ」
「いや、俺が思ってた以上に藍音って凄かったんだなあ……って」
「私をからかった所で何も出ないぞ」

ため息混じりにそれだけ言い切ったところで軍用車が止まる――目的の、地下鉄跡に到着したようだ。
まずはソーマが、ついでアリサが車から降りる。その後に続いて私が車から降りた所で……コウタが思い出したようにぽつりと呟いた。

「そういや、藍音の神機の調子があんまりよくないってリッカが言ってたけど大丈夫か?」
「ああ、私も聞きました。サクヤさんも心配してましたし」
「……特に問題はない、と言いたいところだが正直扱いづらさは感じているな」

手にした神機にちらりと視線を送り、短く答えると私はそのまま歩き出す。後ろから聞こえる3人分の足音がどこか躊躇いがちに聞こえたのは私の気のせいだったのか――それとも。
私が振り返るよりも先に、耳に届いたのは……いつものようにどこか落ち着いた、ソーマの低い声。

「無理はするなよ、藍音」
「分かってる。まあ、慎重に動けば大丈夫だろう。やりづらさを感じているのは装甲を展開する時だから、無理にガードしようとしなければなんてことはない」

ソーマの言葉にそんな風に答えながら、私はただ足を進めるだけだった。
その背後でやり取りを不思議そうに見ているアリサと、意味ありげに笑っているコウタの表情には気付かないままに。

――もしもこの時、神機の不調をたいしたことないと判断せずにすぐに神機をメンテナンスし、その間休暇でも取っていたとしたら……私たちを取り巻く「激動」の流れは変わっていたのだろうか、なんて事を後から考えることがある。
だが、「この時の私」はそんなことを知る余地もない。ただ、崩れつつある平穏に抗うかのように戦い続けることだけが、ただこの時の私にできることだったのだから。

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