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拍手お礼再掲|歌を口ずさむコナー

*拍手のお礼だったものです。短いです。既に読まれている方はごめんなさい。




 コナーは彼女から柔らかで愛に満ちた接吻を受ける。道行く人々がそのアンドロイドと人間の風変わりなカップルを横目で見るが、二人はもうそれを気にする段階をとうに越えていた。
 これから1週間は彼女に会えない。これから1週間はこの口付けから受け取った愛で凌がなければならない。
 そのことをコナーは分かっているから、彼女が短く済ませようとしたそれを長引かせるべく努力する。だが結果、終わりが来てしまう。彼女は唇を離し、コナーは名残惜しさを覚える。
「またね、コナー」
「ええ、また」
 簡素な別れの挨拶を交わして、彼女とコナーはそれぞれの職場へ向かう。彼女は改札を抜けて電車に乗り、コナーは駅を出て無人タクシーを捕まえる。

 コナーはタクシーの中から通勤する人々を眺めた。それぞれ異なる服を身に纏い、異なる歩調であるく彼ら、人間たち。もしも彼女がそれに紛れていても、コナーは一瞬で見つけ出すことができただろう。顔をスキャンする必要すらない。彼女は特別だから。
 そしてコナーは歌を口ずさむ。今朝ベッドの中から眺めた、鏡台の前で身支度をする彼女が歌っていた歌を。
 彼女は歌詞を半分ぐらいしか覚えておらず、その歌にはところどころ誤魔化すようなハミングが混じっていた。コナーはその気になれば完璧な歌詞を探すこともできたが、彼女が歌っていた通りに歌うことを選んだ。
 歌いながら、コナーは思った。「またね」というのはいい言葉だと。別れの言葉にして、次も必ず会えるということを約束する言葉でもある。また彼女に会い、その愛情を受け取り、翌朝には、裸のままベッドに寝転んで、彼女が歌いながら朝の仕度をするのを眺めるという特権にあずかることができることを約束する言葉だ。
 彼女はあまり感情を表に出すタイプではないが、コナーがそれに不安を覚えたことはない。なぜならコナーは彼女が散りばめた愛情の欠片を探すのが得意だったからだ。この「またね」という言葉にだって、彼女が来週の逢瀬を望んでいることが隠されているし、彼女が口ずさんでいた歌だってそうだ。短い時間しか共有できない恋人たちの歌。だがその時間があることを喜ぶ彼らの歌。彼女はその喜びの部分の歌詞だけはしっかりと覚えていた。
 そういうところに、コナーは彼女の愛情を感じる。


 コナーは彼女に会えない1週間を、別れ際の言葉と唇へ与えられた暖かさ、繰り返されていた歌詞で乗り越えていく。
 そしてまた、彼女と会う。


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