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拍手お礼再掲|彼女を追いかけるコナー

*拍手のお礼だったものです。短いです。既に読まれている方はごめんなさい。




 所用を済ませたコナーが戻って来たデスクには、ハンクしかいなかった。先程まで端末と向かい合っていたはずの彼女の所在をハンクへ尋ねれば、「さっきまでいたんだがな」という何の助けにもならない返事があった。時刻はちょうど正午を指していて、彼女はランチにでも行ったのかとコナーは考え、それなら僕も誘って欲しかったなと思う。今から追いかけようか、とコナーは誰もいないデスクをスキャンして、彼女の動向を探り始めた。
 座席に僅かな温もりが残っているのは、先程まで彼女がそこにいたことを表している。デスクの上へぽつんと置かれたエナジーバーは、彼女がどこに行ったのかの手掛かりになるだろう。コナーがそれを手に取ってよく見れば、開封しようとして途中で止めたような短い切れ目が端に走っていた。どうやら最初の仮説“彼女はランチへ行った”は間違いであるらしい。
 エナジーバーはチョコレート味で、成分表の一番最初に砂糖が載っていることから、かなり甘いのだろうということが推測された。彼女は糖度の高いものを摂取する際には必ずブラックコーヒーを飲む。だからコーヒーを淹れに行ったのだろう。コナーはそう結論付けて、休憩所へと足を向けた。

 だが彼女はそこにも居なかった。コーヒーと彼女の香水の混ざった残り香を嗅覚センサーが捉えたものの、肝心の彼女自身はいない。コナーは彼女の指紋を手掛かりに、コーヒーを淹れたであろう彼女が次に向かった先を辿った。

 なぜそれに彼女の指紋が付いているのだろうと、コナーは不快感を覚えた。コナーはギャビンの持っている紙コップから彼女の指紋を検出したのだった。彼女がギャビンにわざわざコーヒーを淹れてやったのかと考えると、コナーは落ち着かない気持ちになり、ギャビンに真意を尋ねてみようかと口を開きかけたが「なんだよ」と敵意に満ちた言葉とひと睨みを受け、それを止めた。


 彼女の足取りは潰えてしまい、落胆を抱えたままコナーがデスクへ戻ると、件の彼女がいた。彼女はハンクと話しながら、紙の切れ端に何かを書き込んでいる。
「で、全部Lサイズで頼む」
「オッケー」
 どうやらハンクにお使いを頼まれているらしい彼女は、最後にLと書いた紙切れをポケットに仕舞い、そこでようやくコナーの存在に気が付いたようだった。
「あ、コナー。私今からバーガーショップに行くんだけど、一緒に行く?」
「ええ、喜んで」
 コナーは微笑んで頷き、しかしその首を横へ傾げる。
「そのエナジーバーはもういいのですか?」
「ああ、これ?」
 コナーの指差すそれを彼女はデスクへ仕舞った。
「気が変わったの」
 その少し苛立ちを含んだ言い方をコナーは不思議に思いつつ、先程からしこりのように心の中へ残っている疑問を彼女へぶつけた。
「ところで、ギャビンのコップにあなたの指紋が……」
 コナーがそう切り出すと、その時のことを思い出したのか、む、と彼女が顔を歪める。
「あれは私の方がずっと大人だっていうことの証明よ」
 そう言い放ち、彼女はバッグを片手にすたすたと歩き始めた。
「もう一杯淹れ直すのも癪だったし」
 続けてそう呟く彼女の隣に並びながら、コナーは再び仮説を立てる。多分彼女はギャビンに淹れたばかりのコーヒーを取られてしまったのだろう。そして彼女はコーヒーを飲むのを諦め、それなしでは食べられないエナジーバーも諦めた。
 そう考えると……と、コナーはそれとなく彼女と手を繋ぎながら思う。
 本人には全くその気はなかっただろうが、ギャビンの子供っぽい行為が巡り巡って、こうして彼女と二人きりになれる時間を作ってくれたのだ。
 ……ギャビンに感謝でもするべきだろうか。
 …………いや、しなくていいか。


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