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18(R18)

 コナーがシャワーを浴びている間に、ナマエは家の中を隅から隅まで歩いて回った。何を見ても面白く、興味深かったが、浴室と比べると家の中はやや生活感に乏しかった。彼はこの家でどんな風に暮らしているのだろう、とナマエは思った。あまり開けられることのないらしい窓の桟には、埃が厚く溜まっている。その脇に置かれたアヒルを手にとって、ナマエは尋ねた。彼は外に興味がない人?アヒルは答える。でも、さっき外を歩いた時は楽しそうだったよ、と。ナマエは考えを変える。じゃあ、彼はこれから外を好きになる人?そうだったらいいな、私は彼ともっといろんなところに行きたい。アヒルは――ナマエは黙り込み、思う。でもその前にやらないといけないことがある。
「ナマエ?」
 背後から急に名を呼ばれて、ナマエはアヒルを取り落としそうになった。振り返って見れば、風呂上がりのコナーが少し驚いたようにナマエの手に握られたアヒルへ視線を投げかけている。
「なにか嫌なことがあった?」
 このアヒルは主に抗議の場にしか出てこないから、今日のことでナマエが何か不満を持ったのかと、コナーは勘違いしたらしい。ナマエは慌てて首を横に振り、アヒルを新たな定位置へと返した。
「今日は楽しめただろうか」
 ナマエの横に並び、自然な仕草で腰に手を回してそんなことを尋ねてくるコナーに、ナマエはとびっきりの笑顔を返した。当たり前じゃない、と。そして装飾語を使うかのように、ナマエがコナーの頬へ軽いキスを何度も贈ると、腰へ回されていた腕が上へ伸びてきて、彼女の身体を優しく包み込んだ。

 お互いに交わしていた軽いキスだったものが、段々と荒々しさと激しさを帯びてくる。そうなるともう歯止めが効かない。
 ナマエは帰宅した時から、コナーが微かにそういう気分になっていることを知っていた。なのに、今の今まで彼はそれを我慢していたのだ。彼のそういうところがナマエは好きだった。
 熱っぽいコナーの瞳がナマエの瞳を捕まえて逃さない。
「ナマエ……いいかな」
 言葉と共に、コナーの手がワンピースの上からナマエの身体を撫でる。それはナマエにとって初めての感覚で、くすぐったさに彼女は身を捩った。
「嫌?」
 請うような声でコナーに尋ねられて、ナマエはシリウムポンプが弾むのを感じた。彼といるといつもこうなる、とナマエは思い、次いで自身の故障を疑う。だがそのポンプの弾みはどうにも心地よく、いつも、ナマエはもっとそれを味わいたいと思ってしまうのだった。そんな気持ちに身を任せたナマエはコナーの服へ手を掛け、それを脱がせることによって、自分が先をしたいと思っていることを伝える。
 立ったままで、二人はささやかな触れ合いを交えつつお互いの服を脱がせあった。
 裸で抱き合うと、水を間に挟まない二人の肌は吸い付くように重なった。ナマエはコナーの身体が、水の中で触れる時よりもずっと熱いことに驚いた。薄い皮膚の向こうで、彼の心臓が激しく脈打っているのが分かり、ナマエも自分の中のなにかがその律動に同期していくのを感じた。
 コナーがナマエの胸元に口付けをひとつ落とし、そのまま唇と舌で彼女の胸の先をくすぐる。ナマエはその甘い刺激に無言の喘ぎをもらし、自分に声があったらと思う。彼へ自分が気持ちよくなっていることを伝えられたらいいのに、と。それができない代わりにナマエはコナーの首筋や脇腹を優しく撫でる。自分が触られて気持ちいいところは彼にも気持ちがいいのだと知っているから。
 ナマエのそんな心を感じとったコナーが顔を上げ、もう何度目か分からないキスを交わすと、自分が触れて欲しいところへナマエの手を誘導する。ナマエがそこを愛のこもった手付きで刺激している間に、コナーはナマエの脚へ手を這わせた。
 新しく得た脚は鱗に覆われた尾よりもずっと鮮明に、ナマエへ触られているということを伝えてきた。コナーの指先がナマエの太腿の内側を微かに凹ませながら撫で上げ、彼女の中心にたどり着く。人魚の身体だった時にはなかった、脚の間の小さな膨らみをコナーの指先が捕らえ、愛撫し始める。そこには、他の部分と変わらない触覚センサーが付いているだけの筈なのに、ナマエは腰が勝手に跳ねるほどの快感を味わった。彼女はそんな制御できない身体の反応に戸惑いはしたが、止めてほしいとは微塵も思わなかった。
 ナマエのなかから自然と溢れ始めた潤滑液を絡めながら、しつこくそこを撫でていたコナーの指先が、唐突にその膨らみを軽く何度か摘まむようにして刺激する。さっきまでは海岸へ打ち寄せる波だったような快感が、その動きで膨れあがり、大きな波となってナマエを飲み込んだ。それに大人しく身を委ねたナマエの身体は一瞬強ばった後、勝手に、ふっと力が抜けていった。思わずへたり込みそうになるナマエをコナーは優しく抱きとめる。
「気持ちよかった?」
 少し笑うように、だが嬉しそうな気配を覗かせながら尋ねてくるコナーへ、ナマエは恥ずかしさの混ざった視線を送り、こつんと額を合わせた。そして、何をしたいのかを如実に表しているコナーのものを優しく擦って、今度はナマエがコナーを呻かせる。コナーは早々に降参して、ナマエのなかへ入れる許可を求めた。ナマエが口付けでそれに答えると、コナーはナマエの片足の膝裏へ手を差し入れて持ち上げる。
 そうしてナマエは背中を壁に支えられた状態で、彼のものがなかへ入ってくるのを感じた。

「ナマエ」
 はあはあと荒い息を吐きながら、コナーはナマエの名を呼び、その柔らかな耳たぶを甘噛みする。立ったままでの行為をしばらく楽しんだ二人は、求め合う場所をリビングのテーブルの上へ移していた。
「もっと僕を求めてくれ」
 ナマエは自分のなかでコナーのものが動くのを感じながら、その言葉に応えようとする。コナーの広い背中に手を回して、彼を抱きしめる。声で求められない代わりに、身体を寄せて胸と胸を密着させ、ひとつになりたいと訴える。今のナマエには脚もあったから、それを彼の腰へ絡ませて、より深く奥へ来るように促した。そうするとコナーはますます興奮した様子で腰の動きを早め、ナマエのなかを突き上げて身体を揺さぶるのだった。その動きに抗議するかのようにテーブルが軋んだ音を立てたが、二人にはそんなことに気を遣っている余裕はなかった。
 耳元でコナーが上げる低い唸りにも似た声を聞くのは、こういうことをしている時のナマエの楽しみのひとつだった。彼の声の間隔が狭まっていくのに合わせて、ナマエの身体の奥への刺激もどんどん激しくなっていく。もっと、と心の中で叫びながらナマエがコナーのものを締め付けると、それに応じるかのようにコナーは動きを小刻みなものへ変えて、ナマエは全ての機能が止まってしまいそうな程の快感が回路をかき乱していくのを感じる。それに少し遅れてコナーが押さえられなかった声を上げながら、身体を震わせて達した。

 そのまま二人は裸のままベッドへ飛び込んだ。どうせまた二回目、三回目、もしかすると四回目までもあるというのに、どうして服など着る必要があるのかというのが二人の一致した意見だった。二人はシーツの間で身体を絡ませあい、お互いを改めて知り、求め合った。
 一晩の触れ合いではまったく足りなかったが、むしろそのことがコナーには嬉しかった。また明日がある、とコナーは思った。明日も、明後日も、明明後日だってある。僕たちには未来がある。ずっと一緒にいられる未来がある。それがコナーに幸福を感じさせた。彼はナマエを腕に抱いたまま目を瞑り、彼女が背を優しく撫でてくれるのを味わいながら、深い愛の中で眠りについた。

 だが、翌朝彼を迎えたのは、空っぽのベッドだった。


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