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拍手お礼再掲|コナーが初デートに至るまでの話

※『ハンクに延々と恋人の話をするコナー』の続き
※少し加筆しました。


「どうしましょう!ハンク!」
 部屋中に響いたその声とほぼ同時にバスルームのドアが音を立てて開かれ、洗面台に向かって歯を磨いていたハンクは息を詰まらせた。うがいを済ませてから咎める意を含んだ視線をコナーへ送るが、コナーはそんなことに構っていられない様子で、LEDを黄色にしながら狭いバスルームの中を歩き回っている。
「どうした」
 仕方なく、ハンクがそう尋ねてやるとコナーはキッと足を止めてハンクへ向き合った。
「明日デートすることになりました」
「……よかったじゃねえか」
「よくな……いえ、デートはそう、いいことです。デートは。でも明日だなんて!あと10時間以内にデートプランを考えなければならないんですよ!?」
「延ばせねえのか?」
「僕も彼女も予定が合う日が明日しかなかったんです。それに、そろそろ彼女と会わなければ僕の方が耐えられそうにありません」
「……そうか」
「そうか、じゃないですよ。ハンク」
「俺にどうしろってんだ」
「一緒に考えて下さい!」
 嘆いたり、喜んだり、真顔になったり、懇願してみたりと忙しいコナーに、ハンクはため息を一つつく。
「お前な、50代のジジイに今どきの若いやつらのデートプランなんざ立てさせるんじゃねえ。ネットにあるだろ。ネットには何でもあるらしいからな」
「もう散々探しましたよ。それよりも、僕は血の通った意見が知りたいんです」
 そう言って、まるで子犬の頃のスモウのようにハンクの視界の中をうろちょろと歩き回るコナーに、ハンクはやれやれと首を振る。
「どこ行くかは決まってんのか?」
「それが、まだ……」
「相手はどこ行きたいとか、言ってないのか」
「聞いてみたら、逆に尋ね返されてしまいまして」
「お前はどこ行きたいんだよ」
 ハンクの問いかけに、コナーは明らかにしょんぼりとした様子を見せた。
「僕は職場と事件現場以外、どこにも行ったことがないんですよ?どこが安定のデートスポットかも分からないのに、迂闊にどこそこへ行きたいなどと言えると思いますか?」
「じゃ、それを正直に言ってみたらどうだ。どこへ行ったらいいのか分かりませんってな。もしかすると相手は行きたいとこがあんのに遠慮してるかもしんねえし」
 これは、あれだな、とハンクは思った。初々しい恋人同士によくある遠慮のし合いというやつだ。不運な恋人たちはこれが原因で初期も初期に関係が終わるものだが、こいつらはどうなるだろう。ハンクが横目で伺ったコナーは、LEDを数度青色のままくるくると光らせ、突然満面の笑みを浮かべた。
「ハンクの言う通りでした!彼女、水族館に行きたいそうです。子供っぽいかと思って言い出せなかったらしいのですが、僕が初めて行くのだと伝えると喜んで、一緒に楽しもうねと返してくれました」
「そうか、まあ初デートにはいいんじゃねえか」
「水族館ですよ、ハンク。僕は初めて水族館に行くんです。それも、彼女と一緒に」
「……よかったな」
 夢見るような顔つきでそう言葉を漏らすコナーにハンクは苦笑し、心の中でその彼女とやらに、出不精な俺の代わりにこいつに世界を見せてやってくれと頼んだ。

「初デートでの心構えはなにかありますか?」
「心構え?」
 どうやら、話はまだ終わっていなかったらしい。バスルームから出ようとしていたハンクはコナーのその問いかけに足を止め、しばし悩んだ。
 昔々、まだ彼の顎にニキビがあってそれを気にしていたような頃、初デートをこなしてきた女子たちはどんな文句を言っていたのだったか。若かりし頃の彼と友人たちはその会話に耳をそば立たせ、自分は絶対にそんな失敗はするものかと誓ったものだった。それは、何だったか……。
「……初デートでやっちゃいけねえのは舌を入れることだな」
 遥か昔の記憶を引っ張り出すことに成功したハンクがそうアドバイスするも、しかし、コナーは首を傾げた。
「舌、ですか?」
 ハンクは苦笑し、まだ何も知らないらしいこの青年のために助言をもっと初歩的なものへ変えてやる。
「まあ、最初は手を握るぐらいにしておけってことだ」
「手を、握る」
 コナーは自分の手へ視線を落とし、そして微笑を浮かべる。
「そうできたら、いいですね」
「できる。お前ならな」

 そうして、やれやれ、と独りハンクは思った。これではまるで学生のデートではないか。だがコナーの恋人は話を聞く限り――そう、ハンクはコナーから二人のなり染めを聞かされてから毎日のようにその進展具合を聞かされていたのだった――彼女はどうやらコナーと同じ歩調で歩むことを選んだらしい。
 ……あいつはいい恋人を持ったな、とハンクは改めて思った。



 翌朝、家を出る直前に、お前その格好でいいのかなどと言うハンクのせいで、私服という概念のなかったコナーは大慌てをしたものの、結局いつもの服を身に纏い、家を出た。5回ほど、ネクタイが曲がっていないかハンクに尋ねた後で。
 コナーは待ち合わせの時間より30分は早く指定した場所へたどり着いたが、彼が道行く人々の顔認証をし始めて10分も経たぬうちに、その認証システムが彼女の存在を捉えた。それと同時に彼女の方もコナーに気が付いたらしく、笑みを浮かべて手を振る。そんな彼女に駆け寄るコナーの胸は期待と喜びに高鳴っていて、どんな時も、それが裏切られることはないのだった。



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