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短編|コナーとRK900とタスクの話

*『コナーとRK900とコーヒーの話』の続き
*すいません、なんだかRK900が当て馬のようになりました。(そういうつもりで書いたわけではないです)




 真面目な顔をしたRK900に「少し付いて来て下さいませんか」と言われたら、付いて行かない訳にはいかないだろう。
 だから、ナマエはそのしっかりと伸ばされた背中を追って取り調べ室へと続く薄暗い廊下まで歩いてきたのだった。そして急に歩みを止めたRK900の固い背にぶつかりかける。
「それで、ここに何の用なの?」
 RK900は彼女の問いかけに答えず、ただ辺りを確認するかのように見渡して、「照度50ルクス……」と呟いただけだった。ナマエはその全く答えになっていない返事に首を傾げ、RK900が人間にも理解できるようなことを言ってくれるのを待つ。くるりとRK900がナマエへ振り向いた。
「すみませんが、そこの壁へ背中を付けていただけませんか」
 突然で不可解なそのお願いにナマエはますます困惑を深めたが、先程の呟きよりは理解できる言葉だったのでそれに大人しく従った。冷たい壁に背をもたれ掛けさせ、改めてRK900を見上げる。
「……それで?」
「そのまま動かないで下さい」
 この体勢に何の意味があるのかナマエにはさっぱり分からなかった。だが、RK900がそんな彼女の頭の横に片手を付き、もう片方の手を軽く彼女の腰に添えてきて、ナマエは急に強烈な既視感を覚え身を強張らせた。
 これは、あれだ、とナマエは壁とRK900の間で思った。コナーがキスしてくる時と同じだ。それも、キス以上のささやかな触れ合いも求めている時と。
 そう彼女が推測した通り、まるでいつものコナーの動きをトレースしたかのように自然な動作で唇を重ねようとしてくるRK900を、ナマエはぐいと突き放した。彼にとってその抵抗は全く予想外なものだったらしく、バランスを崩したRK900は二、三歩後ろへ下がり、その固い表情の下から一瞬だけ不思議そうな表情を覗かせる。
「どうして拒絶するのですか?」
「なんでこんなことを?」
「あなたを暗がりに連れ込んで身体的接触を図るというタスクを実行しようかと」
 はあ?とナマエは思い、実際にそれを声にも出した。
「はあ?」
 淡々と、RK900は答える。
「頻出するタスクでしたので、小まめに対応していくべきかと推測しました」
 ナマエは若干の頭痛を覚えた。
「……悪いんだけど、コナーを呼んでくれない?」

 コナーは秒で来た。
 廊下の向こうに姿も見えないうちから走って来る慌ただしい足音が聞こえ、ジャケットの裾をはためかせながらコナーは姿を表した。
「どうして二人っきりなんですか!!!」
 彼の声は廊下に響き渡った。
「それに!少し距離が近すぎませんか!?」
 LEDを黄色く光らせながらそう言いつつ、ナマエを自分の元へ引き寄せてRK900から遠ざけようとするコナーがもしも先程の二人の様子を知ったのなら、自己破壊を始めかねない。ナマエは彼が落ち着くのを待って、口を開いた。
「コナー、ちょっと彼のタスクを見てくれない?なんだか……あんまりよくないタスクが設定されてるみたいなんだけど」
 ナマエの言葉に、RK900はコナーへ向き直る。
「私はただあなたが日常的に行っているタスク、『ナマエを暗がりに連れ込んで身体的接触を図る』を実行しようと試みただけです」
 抑揚のない声で先ほどナマエに説明した内容を繰り返すRK900に、自身の恋人がなかなか危ない状況に追い込まれていたらしいことを知ったコナーは慌ててその腕を掴んだ。そして無言の通信を始める。
 目を閉じてRK900のタスクを確認しているらしいコナーの眉間の皺がどんどん深くなっていくのを見ながらナマエは、いつもコナーが階段の踊り場やら、証拠保管室やらに自分を連れて行こうとするのにはこんな意図があったのかと一人納得していた。


 そして少々の時間が過ぎ去り、どこか苛立った様子でコナーはRK900の腕を離した。もちろん、RK900はいつもの平然とした態度を崩さない。
「選んだタスクを本当に消去してもよろしいのですか」
「ああ、早く消してくれ!」
 RK900がナマエへ行うはずだったタスクの数々を見てしまったコナーは落ち着くこともままならず、RK900を急かした。
「では削除内容を確認します『隙を見てナマエにキスする』『ナマエを……』」
「か、確認しなくていい!早く消すんだ!」
 コナーのその剣幕にRK900は若干腑に落ちないような表情を浮かべたが、リングの動きを見るに、それを実行したようだった。
 ナマエはそれにほっとしたが、コナーはその何倍もの安堵感を味わった。
「仕事に戻ってくれないか」
 精神的な疲労のようなものを覚えながら、コナーがRK900へそう伝えると、彼にとっては全く理解できない一連のタスクを削除され、より効率的に仕事をこなせるようになったRK900はどこか満足そうな雰囲気を漂わせながらその場を立ち去った。


「私とキスするのって、タスクなの?」
 少し眉を寄せたナマエがコナーの顔を覗き込みながらそう問いかければ、コナーは大慌てで頭を振った。
「いいえそんな!タスクというよりは毎時に設定されたリマインダーです」
「うーん?」
 それは弁解になっているのだろうかと首を傾げるナマエに、コナーはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「つまり僕はあなたにいつでもキスしたいと思ってるということです」
 そう言われてキスしないでいられるだろうか。
 ナマエがコナーの唇を奪うと、コナーはそのままナマエの腰へ手を回して、彼女を壁と自分の間へ閉じ込めてしまった。キスの後のささやかな“身体的接触”のために。

 しかし、夜になる前にあの最後のタスクを消してしまうことができて良かったと、コナーが密かに胸をなで下ろしていたことは誰も知らない。


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