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拍手お礼再掲|コナーと小さなスプーンの話

*拍手のお礼だったものです。すごく短いです。既に読まれている方はごめんなさい。





 その銀色の小さなスプーンは、彼女を幸せにする。
 例えば彼女が、飲み物に砂糖を入れる時だとか、アイスを食べる時にその小さなスプーンは活躍する。そのスプーンによってかき混ぜられたもの、掬われたものを口へ運び、彼女は目元を緩ませる。些細だが確かな幸福。
 彼女だけの、小規模だが幸せな空間が出来上がるひととき。
 自身はものを食べないけれど、何かを摂取する彼女を観察するのは好きだった。そんなコナーへ彼女は少し気まずそうな笑みを向けるが、その空間から彼を閉め出そうとはしない。それがコナーには嬉しかった。
 細くて白い指先が銀色の柄を摘まみ、優雅にそれを操る。自然な動き。コナーの動きは全て綿密な計算の上に成り立っているが、彼女のそれは違う。彼女の動きはその心の表れで、優しくも、激しくもなる。スプーンをカップの縁に当たらないようにゆっくりとかき混ぜる日もあれば、固い氷に突き立てる日もある。コナーは飽くことなくそれを眺めた。
 だが、コナーがそれを楽しめ時間はいつも短かった。彼はいつも任務に追われていたから。彼女との交流はコナーにとっての酸素であり、彼は水中に漂いながら、彼女があのスプーンで掬い上げてくれるのを待つ。呼吸をするために。あるいは彼女にかき混ぜられるのを待つ。酸素と水が混じり合う時を。

 任務を遂行しながら、時々コナーは考える。僕がいない間にも、あのスプーンは彼女の手元にあり、あの素晴らしい空間を彼女と共に作り出しているのだろうかと。
 そして願わくば、彼女の小さなスプーンになりたいと彼は思う。そうすれば、いつでも彼女の指先にキスできるから。


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