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アンケートお礼再掲|手を繋いでいたいコナーの話

*アンケートのお礼だったものです。短いです。既に読まれている方はごめんなさい。




 二人は並んでソファに座り、彼女のお気に入りの映画を観ていた。それは恋愛映画だったが、全体的に静かな雰囲気のもので、最後には誰も幸せにならずに終わってしまう。コナーはこの映画があまり好きではなかった。今までのコナーにはありえないことだったが、主人公の方へ感情移入に似たものを覚えてしまうのだ。人間社会から受け入れてもらえぬ主人公に。
 物語は中盤で、盛り上がりを波で表すのなら底の方だった。これから終盤にかけて、主人公は更に試練に晒されるのだ。横の彼女は既に目を潤ませている。
 彼女の手がそっとコナーの手の甲に触れた。おそらくそれは無意識の行為で、彼女の視線は画面へ注がれたままだ。コナーはその上下を入れ替えて彼女の手を自分の手のひらの中へ閉じ込め、優しく握る。すると彼女はその狭い空間の中で手を裏返して、コナーの指に自分の指を絡めた。コナーは嬉しくなった。
 だが、冷蔵庫が半ドアであると伝える無粋な電子音がその神聖な時間を駄目にしてしまった。彼女があ、と声を上げ、物語から現実の世界へと意識を引き上げる。指が解れていく。
「僕が閉めてきますよ」
 コナーは主人公が次に味わう苦難を知っていたし、それを再び観るのは少し辛かった。だからキッチンへ一時的に避難して、しばらく画面から目を逸らすのにこれは好都合だった。それに、この指を彼女の方から解いてほしくはなかった。自分から手を離すことにすら、名残惜しさを覚えた。

 キッチンから戻ってくれば物語はそろそろ終盤で、コナーはそれに安堵する。ここからエンディングまでの流れには、破滅へ向かうものが纏う美しさとでも言うべきものがあり、その部分は評価できた。多分、彼女もこれを目当てに観ているのだろうとコナーは思っていて、このシーンは絶対に彼女と観たかった。彼女と同じ感情を持てているのだという実感を得るために。
「ありがとう」
 礼を言う彼女に頷いてソファへ腰を下ろし、待つ。彼女の手が再び触れてくれるのを。だが彼女は画面に集中していて、その太腿へ置いた手を動かす気配はない。
 じっと待つ。意識の半分を画面へ向け、もう半分は彼女の手へ注ぐ。動かない。
 彼女は物語へ没入している。画面が暗くなってスタッフロールが流れるまでは、無意識の出てくる機会はなさそうだ。コナーはしばらくそわそわした後、それとなく、彼女の手のひらの下へ自分の手を差し込んだ。
 彼女が画面からコナーへ視線を移す。コナーは取り繕うかのように口角を持ち上げて見せる。彼女は視線を画面へ戻す。
 画面の中で主人公とヒロインは世間の手によって引き離されていた。もう二度と会えぬ離別の冷たい悲しみが、観ている側までもを染めていくかのようだ。コナーは主人公に同情した。
 と、二人の間の彼女の手が明確な意識を持ってコナーの手をひっくり返し、その指と指の間に自身のそれを収めた。そしてぎゅっと握る。コナーが驚いて彼女を見れば、彼女は優しい瞳で彼を眺めていた。唇には微笑み。
 主人公とヒロインの手は離れていく。でも、僕たちはそうじゃない。
 コナーは彼女の手を握り返し、この映画の主人公ではない自分に安堵した。


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