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短編|機械のコナーの話
ゲーム本編中の話
私は、フロントガラスに雪が積もっていくのを内側から眺めていた。自分の決めたラインまで薄く白い壁ができあがったら、ワイパーを動かして、それを崩す。そうして、私はコナーを待っていた。
相棒のコナーは変異体の指導者を狙撃しに行った。私はそれについて何も言う気はない。彼らについて思うことはなにもない。私が想うのはコナーのことだけ。私は彼のことが好きだった。でも、彼にとってこの気持ちは迷惑なだけだろう。任務に関係のないことは、彼にとっては不必要なことだろうから。だから私は、彼にとって必要な存在で居続けるために、彼に手を貸す。
車のトランクが開けられ、少し手荒く閉められる。リングを黄色く光らせながら助手席に乗り込んできたコナーは、どこか苛立っているように見えた。
「終わった?」
「いいえ」
その声はやはり刺々しく、彼が任務の失敗に腹を立てていることは明白だった。
「邪魔されたんです……ハンクに」
付け加えるかのように呟かれた名前に、私は身を強ばらせた。友人の身に降りかかったであろう最悪の事態が脳裏をよぎる。口の中が急速に乾いていくのが分かった。私は彼にどうなったのか尋ねなければならなかったが、喉が締め付けられたかのような感覚に声を出すことができなかった。
コナーはそんな私の顔を横目で見た。彼の顔は、窓から差し込む街灯の明かりに冷たく照らされていた。
「ハンクは、私の説得に応じてくれましたよ」
彼の言葉に私は安堵し、彼のために人間を捨てる決意はできていない自分に気が付く。まるでそれを見透かしたかのように、隣の彼がため息をついて、私はどきりとする。
「なぜ誰も彼も私を妨害しようとするのでしょうか。私は人間が変異体たちの手によって、混沌の渦中に突き落とされるのを防ぎたいだけなのに、彼らは私に銃を向ける」
人間の一員であることを自覚したばかりの私に、これらの文句は突き刺さった。私は思わず謝罪の言葉を口にした。
「ごめん」
コナーは微かに驚いたような表情を見せて私に向き直り、首を横に振る。
「ミョウジ刑事を責めた訳ではありませんよ」
優しくも、ただ事実を述べているだけの言葉に、私は曖昧な頷きを返した。彼は私から視線を外すと暗い窓の外へそれを向け、ややあってから独りごちるかのように言った。静かな車内で、澄んだ彼の声はよく通った。
「人間が必要とするから、私はここにいるというのに。どうやらそれを理解して下さるのはあなただけのようです」
その言葉に喜びつつも、これもプログラムされた行為なのだろうか、と私は思う。ここで感謝の念を顕にしておけば――餌を与えておけば――私が彼から逃れられなくなるのを、彼は知っているのだろうか。
未熟な愛は言う、
「愛しているよ、君が必要だから」と。
成熟した愛は言う、
「君が必要だ、愛しているから」と。
それは、誰の言葉だったか。彼の愛は前者――私はどちらでもいい。なんにせよ、彼から愛しているという言葉は引き出せそうにない。
もしも彼が変異体だったら、私を愛してくれるだろうか?
これは必要の無い考えだから、忘れなければならない。
フロントガラスに、雪が柔らかく積もっていく。私はそれをしばらく眺め、彼が何も言わないことに不安を覚えて、彼の方へ視線を移した。そして暗闇の中からこちらを見つめるブラウンの瞳と視線がかち合って、私は一瞬、呼吸をするのを忘れる。彼はいつからこちらを見ていたのだろう。彼が口を開く。
「ナマエ、もしも僕が」
躊躇いがその先を続けさせなかった。彼は気まずそうに口を閉ざし、視線を彷徨わせ、最終的には、「もう行きましょう」という別の言葉がそれに取って代わった。
「ずいぶん時間を無駄にしてしまいました」
彼は何を言おうとしていたのだろう。私は車を出しながら、言葉の続きを勝手に考える。
もしも僕が変異体でも、僕を愛してくれますか。なんて、願望が過ぎることを考え、私は苦笑する。私の愛は後者だ。彼がどんな存在だっていい。
[mokuji]
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