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短編|コナーとRK900とコーヒーの話

 そのデトロイト市警に一時派遣されたばかりのRK900は、サイバーライフによってRK800ことコナーからインプットされたタスクの中の、最重要事項を処理する時間が来たのを感じた。彼は席を立ち、休憩所へ向かった。

「どうぞ、ミョウジ刑事」
 差し出されたコーヒーと、それを差し出す意外な相手に、ナマエは目を丸くした。
「あ、ありがとうRK900。気が利くのね」
 そしてそれを受け取るべく手を伸ばしたが、RK900の後ろにあからさまにショックを受けている様子のコナーを見つけて、その手を引っ込めた。コナーは片手に紙コップを握っていた。
 コナーはつかつかとやって来て、あっという間にRK900の隣へ並んだ。
「ナマエ……」
 そのコナーの沈んだ声と、信じられないものを見るような視線に、ナマエはなぜか浮気現場を目撃されたかのような気まずさを覚えた。
「それを受け取るつもりですか……」
 心なしか、コナーの声は震えているように聞こえた。一方、状況を理解できていないRK900は、なかなかコーヒーを受け取ろうとしないナマエに首を傾げる。
「ミョウジ刑事?コーヒーが冷めてしまいますが」
 その冷める、という言葉に食いついたのはコナーの方だった。
「ナマエ、そっちのコーヒーは72度です。冷めています。それに対して僕がたった今淹れてきたコーヒーは85度、こちらの方が断然風味を楽しむことができますよ」
 いきなりそう早口でまくし立てたコナーは紙コップをナマエへずいと差し出す。二つのコーヒーを前に、ナマエは悩んだ。RK900の好意を無下にするのは避けたいが、コナーがRK900に謎の対抗心を燃やすのも避けたい。同時には解決できないその問題を前に、ナマエは悩みに悩んだ。
 そして困った顔をしたまま腕を組んでしまった彼女の前でコナーは、RK900にこの動作を止めさせようと頑張っていた。
「これは君の仕事じゃないぞ」
 心持ち、突っかかるような調子でそう言うコナーに対し、RK900は微塵の感情も見せず冷静に返す。
「ですが、あなたのタスクではこれが最重要事項として設定されていましたので」
「それは僕の、僕だけのタスクだから君は実行しなくていいんだ」
「そうですか」
 もともと任務外のタスクに執着の薄かったRK900は、そんなあっさりとした態度でコナーの主張を受け入れた。コナーはなぜか肩すかしを食らったような気持ちに襲われた。

 行き場のなくなったコーヒーへRK900は視線を落とす。彼は手の中のそれをどう処理すればいいのか分からなかった。
 ナマエはそれを察して気の毒に思った。そしてそんな彼に救いの手を差し伸べようと、つまりそのコーヒーも自分のところに引き受けようとしたが、傍らのコナーがじっと見つめてくるので、なかなか口を開くことができなかった。
 その膠着した状態の中にいる三人を助けたのはハンクだった。
 所用を済ませてデスクへ帰ってきたハンクは、二人のアンドロイドが立ったままそれぞれの手に湯気の立つコーヒーを持ち、椅子に座ったナマエを見下ろして威圧している現場に出くわしたのだった。
「おい、」
 何を、とハンクが言うよりも早く、ナマエが顔を輝かせてハンクを指さした。
「RK900、彼にそのコーヒーをあげてくれない?」
 ナマエの命令に、RK900は素早く反応した。ハンクに向き直り、コーヒーを差し出す。
「どうぞ」
 そしてそれをサーモグラフィーにかけ、コナーが言うようにそれが冷めてしまっていることを知る。彼は言葉を付け足した。
「ぬるいですが」
 その正直なアンドロイドに苦笑しつつも、ハンクはそれを受け取った。ナマエが、まるで肩の荷が下りたとでも言いたげなため息をついた。

「ミョウジ刑事、RK800」
 コーヒー問題は解決したはずだが、改めてナマエとコナーを呼ぶRK900に、二人は揃って顔を見合わせた。RK900が真面目な顔で口を開く。
「この『ミョウジ刑事にコーヒーを差し入れる』のタスクを削除してもよろしいでしょうか。私にはこれの重要性が理解できません」
 RK900のそんな要求と感想に、ナマエは思わず笑い声を上げた。
「もちろん、いいよ」
「早く実行して下さい」
 急かすコナーの前で、RK900のこめかみのリングがくるりと回り、彼はそのコマンドを実行したようだった。


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