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短編|コナーとキスする話

 ナマエの舌は、シトラスミントの味がする。もう少し探れば、歯磨き粉のそのシトラスミント味の向こうに、彼女が隠しきれなかった食事の痕跡があるのが分かる。コナーはそれを探し出し、分析するのが好きだった。コナーと会っていない間の彼女が何を食べ、何をしていたのかをその少ない手掛かりから探していく。トマトとバジルの味がしたなら、彼女はお気に入りのイタリアンで夕食を摂ったのかもしれないし、ドーナツの甘みを感じたなら署内で軽く済ませて来たのかもしれない。コーヒーの香りが残っていたのなら、どこかで時間を潰してきたことも分かる。
 柔らかく熱い彼女の舌は、彼女の味がする。コナーは機能の全てを使って、それを堪能する。
 唇を離すと、恍惚とした表情のナマエが蕩けるような笑みを浮かべる。
「コナーの舌って、プラスチックみたいな味」
「……嫌ですか」
「ううん、コナーの味って感じがして好き」
「僕もあなたの味は好きです。今日は香草焼きのチキンを食べましたね?ハーブの香りが」
「……そうだけど。分析したの?」
 コナーが頷けば、ナマエは眉をハの字にして、ため息をついた。
「ムードが台無し」
 そう言って彼女はシャツの下に潜り込んでいたコナーの手を追い出し、覆い被さる胸板を軽く叩いて自分の上から退くよう促す。しかしコナーは微動だにしないことでその要求を突っぱねた。
「僕はまだムードは保たれてると思いますよ」
 コナーの腕の下で、ナマエはむっとした表情を浮かべた。
「普通、キスした後で恋人が食べてきたものを言い当てたらムードは壊れるものなの」
「なぜですか?」
「恥ずかしいから。私がどれだけオーラルケアに気を遣ってると……」
 本格的に機嫌を損ね始めそうなナマエとは対照的に、コナーは笑顔を浮かべて見せた。
「あなたの歯磨き粉の味も好きですよ。それで口内を洗浄する度に、あなたと同じ味を共有していることを思い出して嬉しくなります」
 コナーのストレートな言葉に、ナマエは弱い。怒るに怒れず、ナマエはそっぽを向いた。その隙にコナーはムードを取り戻すべくナマエの首筋に口づけを落とす。返ってきたのは、もう、という呆れとそれを上回る愛情の籠もった言葉だった。
「なんで分析なんかするの」
「どうして僕を食事に同席させてくれないんですか」
「質問に質問で返さないでよ」
 コナーは再びナマエのシャツの下へ手を滑り込ませる。ナマエからの妨害はなく、脇腹を指でなぞると、彼女は熱い吐息をこぼした。その合間を縫って、コナーはナマエにキスをする。優しく、触れるだけの軽いものを一つ。
「僕が見ていない間、あなたが何をしていたのか、僕は知りたい」
 そう言ってじっとナマエの瞳を見つめれば、彼女は驚きと喜びがない交ぜになった表情を見せた後、少し戸惑ったような顔をした。
「だから分析してたの?何を食べたのか知りたくて?」
「そうです。あなたに関するデータを手にすると、なんというか、落ち着くんです。本当はあなたの食事に同席したいんですが」
 コナーの思いがけない言葉に、ナマエはきょとんとした。
「そうだったの?あなたは食べないから嫌かと思ってた」
「嫌なんかじゃ……あなたのすることを僕は全て知りたいんです」
 ねだるかのようにそう言うコナーに、束縛心よりも寂しさを感じとったナマエは微笑みを返した。
「分かった。今度からは食事に誘うね。そしたらもう、キスしてる時に分析するの止めてくれる?」
「もちろんです」
 即答するコナーに今度はナマエの方からキスをしたが、コナーは今度から口には出さないと決めただけであって、この密かな宝探しじみた行為をやめる気はないのだった。


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