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短編|コナーとチョコレートドリンクの話

!attention!
ゲーム本編後かつ長編後の話です。
長編を読んだ方は、二代目コナーとの話だと思って下さい。
『コナーとアイスの話』を読んだ後に読まれるといいかもしれません。

 久々の、二人揃っての休日だった。モールで買い物を済ませた二人は車で帰路についていた。コナーは助手席で次に再生するCDを選んでいたが、視界の端にとある場所を捉え、ナマエに声を掛けた。
「そこの公園に寄って行きませんか」
 ナマエの返事は芳しいものではなかった。開口一番に彼女は、寒いから嫌、と言った。だがコナーは知っていた。最終的には彼女は自分のお願いを聞いてくれることを。そして、実際にそうなった。

 が、ナマエは車から降りるのを渋った。
「寒い」
「歩いていれば、温かくなりますよ」
「自分は寒くないからって!」
「ええ。あなたのくれたこのコートのおかげですかね」
 ナマエの抵抗の言葉をはいはいと軽くいなし、コナーはナマエを車の中から引きずり出した。
「寒い」
 自分が吐いた息が白いのを見て、ナマエは再びそう繰り返した。

 冬の公園。雪の積もるそこを歩く人影は少なかった。手袋を持ってきていなかったナマエは、両手をポケットに突っ込んでいる。コナーはその片手を取ると自分のコートのポケットに入れ、表面温度を上げた自分の手で包み込んだ。ナマエが驚いたように見上げてきたので、コナーは微笑みを返した。
「どうですか?」
「冬の楽しみのひとつね」
 コナーがナマエの機嫌を取ろうとしていることが分かったのか、ナマエはやれやれとでも言いたげな様子で肩をすくめた。

 ナマエの鼻先と頬は冷たい空気で赤くなっている。寒さのせいか口数の少ない彼女に、コナーは冗談めかして得意げに言う。
「なんと、僕には雑談する機能も付いているんですよ」
 その言葉にウインクも付け足してみれば、ナマエはおもしろそうに口角を上げた。
「じゃあ話題を振ってみてよ」
「今日は寒いですね」
 態度の割にはど定番の話題を出したなとナマエは思ったようだ。表情にそれが出ている。しかしナマエはそれに乗っかってきた。
「そうだね」
「今の気温はマイナス3度です」
 ナマエの同意に、コナーは真面目な顔を作ってそう返した。だが、嘘だあとナマエは訝しむ。
「そんなに寒くないよ」
「ええ、嘘です」
 笑顔でさらりとそう言ってのければ、ナマエは唖然としたあと、ちょっとした皮肉を感じとって、コナーを小突いた。
「気温がマイナスじゃなくても寒いものは寒いの」
 とはいえ、寒さに強ばっていた彼女の心と体は少しほぐれた様子で、いつもの笑みをコナーへ向けた。コナーはそれが好きだった。

「今なら寒いと言ってもいいですよ」
 急に足を止めてそんなことを言うコナーを、ナマエは見上げた。
「なんで?」
「温かいものを飲みたくないですか?例えば、チョコレートドリンクのような」
 そう言ってコナーが公園の端に駐車しているフードトラックを指させば、ナマエはああとため息をこぼした。彼女はそれがアイスを売っていた夏の日のことをちらりと思い出した。
「今はいいかな」
「僕の奢りですよ?」
 そう提案すれば、ナマエはじろりと疑いの視線を送ってきたが、コナーは曖昧な笑みを返した。
「なんか怪しい」
 とは言ったものの、ナマエはコナーがフードトラックに並ぶのを止めなかった。数分後、コナーが自分のお金で買ってきたチョコレートドリンクは、そこそこの質量を誇っていた。
「分かった。私を太らす気ね?」
 そう言いつつもそれを受け取ったナマエは、紙コップを通して伝わる熱に少し頬を緩めた。
「でも、温かいのは確かかな。ありがと」
 湯気の向こうから笑顔とお礼を投げかける素直なナマエに、コナーは微笑みを返した。

 最初は冷ましながら飲んでいたチョコレートドリンクも、車へ戻る頃にはすっかりぬるくなっていた。運転席へ座ったナマエはそれをドリンクホルダーに差し込む。助手席のコナーはそれとナマエとを交互に見て、味の感想を求めた。ナマエは彼のその質問を不思議に思いながらも答えた。
「美味しかったけど、ちょっと甘すぎるかな」
 次の瞬間、ナマエはコナーに唇をふさがれていた。長い間外気に晒されていたコナーの唇は冷たく、それが離れた一瞬に、ナマエは冷たいと文句を言った。しかしコナーはそれに対し薄く目を開けただけで、再びナマエの唇を求めた。ナマエの唇を割って入ってきたコナーの舌は温かかったが、それは彼女に言われて慌てて温めたようなムラがあった。
「なにっするのっ」
 ようやく解放されたナマエは涙目になりながらコナーを睨み付けた。息が切れるまで口内を蹂躙され、軽い酸欠にあえぐナマエに対し、コナーは平然とした表情で、どこか満足げな雰囲気すら漂わせている。
「このデータは、美味しいけど、甘すぎる。ですね。インプットしました」
 人畜無害そうな顔をしつつ、時々こんなことをやってのけるコナーにそろそろ強くでなければとナマエは決意を固めたが、彼女が口を開く前に、コナーは重ねて言った。
「僕は食べ物を摂取できませんが、こうやって分析して“味わう”ことはできると、あなたとキスしていて知りました」
「はあ」
「あなたと共有できるデータが増えて嬉しいです」
 その顔が本当に嬉しそうで、ナマエも怒るに怒れず、肩の力を抜いた。先ほどの決意はもう、どこかへ行ってしまった。
「突然だから、びっくりした」
「宣言した方が良かったですか?今からあなたに、舌を入れるタイプのキスをしてもいいですか、と?」
「いや、それは」
 実際に言葉にされると色気もなにもないなとナマエは苦笑し、首を振った。

「帰ったら」
 車が緩やかに走り始めたところで、コナーは口を開いた。
「またキスしても?」
「宣言はしなくていいってば」
 変なところで律儀な彼にナマエは思わず笑ってしまったが、続く言葉にその笑みは消えた。
「下心があるタイプのキスなので、一応」
 ナマエが真意を測るかのように横目で見たコナーの表情はいたって真面目なもので、ナマエは頬を赤らめながらもそれを了承した。


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