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短編|コナーとペーパーナプキンの話

 二人はダイナーのソファに並んで腰掛けていた。ナマエがその店のロゴが入った薄いペーパーナプキンにボールペンを走らせるのを、コナーは隣から覗き込む。
「これは?」
「ギャビン」
「ではこの記号のような物は?」
「にやにやしてるのをマンガ的に表すもの」
 興味深く、コナーはそれらの絵を眺めた。
 元々は、今日の捜査で浮かび上がった容疑者の人相を口頭で説明しつつ、それに添える形で描き始めた絵だった。それがどう転んだのか、ナマエは今思い浮かぶ同僚たちの似顔絵を描いているのだった。
「ハンクはどうですか」
「うーん」
 コナーの注文に、ナマエは少し悩んでからペンを取った。
「どう?」
「……このもさもさした部分は似ているように思われます」
「それって褒めてるの」
 コナーは曖昧な顔をした。それにナマエはふふ、と笑い声をもらし、描くのを終わりにしようとペンを置いた。だが、ナプキンを畳むべくその端をつまんだ彼女の手をコナーが遮る。
「僕を描いてくださいよ」
 そのお願いに、ナマエは乗り気ではない素振りを見せた。
「ほら、見ての通り私あんまり上手くないから」
「ユニークな絵柄、というんでしょう?」
 そんなコナーの説得に、ナマエは再びペンを握ってしばらくそれを弄んだ後、意を決した様子で描き始めた。
「どうだ」
 ナプキンの真ん中に描かれたコナーの似顔絵を、その描かれた本人は熱心に見つめた。ナマエは恥ずかしくなってそわそわと落ち着かなげに座り直した。
「ナマエは僕がこういう風に見えているんですか?」
 ナマエは、喧嘩を売られているのかな?と思ったが、コナーの表情はいたって真面目なものだったので、彼女も真面目に答えた。
「デフォルメだよ。まあちょっと主観的な脚色は入ってるかもしれない」
 ”主観的な脚色“はコナーの興味を惹いた。彼はもう一度絵へ視線を送り、そこに描かれているコナーのように、一人微笑んだ。
「じゃあ次、コナーの番」
 そう言って、ナマエは新しく取り出したナプキンとペンをコナーの方へずいと押しやる。コナーはそれを受け取ったものの、困惑の表情を浮かべた。
「僕が描いても……おもしろくありませんよ?」
「いいから。私に描かせたんだし、コナーも描いてよ」
 そう促され、コナーは未だ眉をハの字にしたままではあったが、目前のナマエを描き始めた。
 彼の描き方は、まさにアンドロイド然としたものだった。左右に腕を動かしながら必要な部分にインクを置き、それを徐々に下へ移動させていく。まるで印刷機のように絵を描く彼を、ナマエは目を輝かせて眺めた。
「どうでしょうか」
「すごい!スーパーリアリズムって感じ!」
 ナマエはナプキンを目の高さまで持ち上げはしゃぎながら、写実的に描かれた自分を鑑賞した。
 と、そこへ待ち合わせていたハンクが現れ、それを後ろから覗きこんだ。
「これはナマエか。よく描けてんな」
 ナマエは振り返って微笑み、頷いた。
「写真みたいね」
 そう言う彼女のその顔と、掲げられた絵に微妙な不一致を感じて、ハンクは改めてその絵のナマエと本物のナマエを見比べた。
「なんか、こっちの方が可愛くないか」
 絵の方を指すハンクのその指摘に、ナマエは不服そうな声を上げてコナーを見やった。コナーはなぜか恥ずかしそうに視線を逸らした。
「僕なりの“主観的な脚色”です」
「お前にはナマエがこう見えてるってか」
 はいはいとでも言いたげな様子でハンクは茶化し、ソファへ腰掛けた。ナマエは改めて絵をしげしげと眺めたあと、コナーに微笑んだ。
「これ、貰っていい?」
「ええ。あなたがそうしたいのでしたら」
 ナマエはナプキンを丁寧に畳むと、バッグに入れた。それを見ていたコナーも、自分の似顔絵の描かれたナプキンを折りたたみ、大切そうにポケットへ仕舞うのだった。


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