26 《playwriter side》


 熱気が練習の時よりも厳しく僕たちを追い詰めてきた。第一回目の公演は、舞台裏に緊張が立ち込める。


(音楽……流して!)


 音響係に手で合図を出すと、ムード溢れる曲が中庭中に流れ出す。それが渡り廊下でまごついていた来客たちの感心をくすぐった。

 用意していた開演ブザーが無表情に鳴り響き、

「これから、演劇『シンデレラ』を開演します。最後までお楽しみ下さい」

というナレーションで始まった。僕に言わせれば、それらは戦いのゴングだった。


『皆さん、こんにちは。わたしの名前はシンデレラ。』

 劇は快調に進む。ダンスも滞りない。万事問題なく、全ては成功したかに思えたその時。

(次は[魔法使い]のテーマだ……頑張れ)


 流れてきたのは、ゴンゴンゴンという無感動な音。

 僕は音響係に詰め寄った。

「どうした……!今のところはノックの音だろ!?」

「この暑さでパソコンがイカれた!緊急システムで動かしてはみるが……」

「頼むぞ」


 僕は何も言えない。僕は、信じることしか出来ない。


(信じてるからな……)

 ピリピリした雰囲気は、奮闘する音響係の努力とスムーズな操作の甲斐もあって、たちどころに消え去った。

 第一回の公演は、大きな失敗もなく終了した。緊張はまだ拭えきれていなかったが、みんなが精一杯やったという事実だけで僕はその日、満足だった。

 仲間を信じることができた自分にも、少しくらい誉めてあげたいくらいだ。


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