17 《magician side》


「君の表情は、俺がこいつに収めたんだから本物だ。君の真剣さは、俺とこいつが知ってる。保証する」

 こいつ、と言った時、真木さんはカメラバッグをポンと叩いた。

「目の前のことに打ち込む人生もいいじゃない。君が、一番大事だと思うことをやればいい。今やらなきゃ、君に『次』はやってこない。目の前のことを片付けて、次のこと。それでもいいじゃないか。どうして全部完璧にやろうと思うんだ」


 あたしの手からハンカチを受け取って、さらに丁寧に髪と肩を拭いてくれた。あたしは泣きじゃくってばかりで、されるがままだった。

「焦っちゃいけない。君が歩いてきた道は間違っていないから。本人がそう信じないでどうすんだよ。

君の人生は君にしか創れないよ。君は変われる。だから今日は家に帰ってゆっくり寝なさい。明日はちゃんと来る」


 その言葉にコクリと頷くと、不思議と涙も止まった。真木さんに家まで送ってもらい、シャワーを浴びてフラフラと部屋に戻る。


(君が、一番大事だと思うことをやればいい)

「一番大事なこと……」

 目をつむっていると、色々なことが頭をよぎる。すっかり頭に入った台本、明日切る予定の黒い衣装、[魔法使い]のテーマソング、振り付け……。頭の中はすっかり「シンデレラ」一色で、自分でも意外だった。

 涙の先には信じられないくらい冷静な自分がいた。そして心地よい安心感が待っていた。まるで、魔法にかかったようで。


([魔法使い]が魔法にかけられるなんて、面白い……)

 深く、安らかな眠りはまもなく訪れた。


back TOP next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -