12《magician side》

 練習も佳境に入ってきたって感じだ。ようやく体も激しいダンスについてくるようになって、今ではどんどん振り付けを改良していくようになった。……どんどん、激しくなってる。

 ぜえはあ言いながら、それでもただ踊っているだけで嫌なことは全て忘れられた。受験のことも彼のことも。ダンスしていないとやってられなかった。

 今日も公園で自主練習。少しくらいなら、大きい音を出しても構わないと近所のおばちゃんが通りすがりに言ってくれた(毎晩頑張ってるなって、思ってたらしい。これは嬉しい)ので、お言葉に甘えてスピーカーから音を出して練習している。

 少々の休憩を挟む。また、嫌なことを思い出した。



「あんた、勉強してる?毎晩毎晩ダンスして」

 お母さんに言われた。あたしは、

「やってるよ、帰ってから」

 と目も合わせずに言うことしかできなかった。本当は、ちっとも手を付けていない。

「楽しいことばかりやってても、自分のためにならないんだからね」

 お母さんの言うことはいちいちもっともで、それだけ痛烈だった。あたしがそんなことも分からないような馬鹿だと思ってるんだろうか。怒りがこみ上げる。

「分かってるってば」

 あたしは自分の部屋に戻ってすぐにベッドにもぐった。


(あたしは、何に怒ってるんだろ……)


 瞼はすぐに重くなり、ゆっくりと視界を暗く覆った。




 他人からみればあたしは、やりたいことばっかやって、楽しいことばっかやって、お気楽に見えてるのかな。まあ、そうなんだけどね。実際、そうなんだけど。


「面と向かって言われると、虚しいな……」

昨日感じたのは怒り。今日一人、夏の夜の公園で思い出せば、こみ上げるのはただ虚しさばかりだった。あたしは何がしたいんだろう。それは答えのない問いだった。あたしは何をしているんだろう。……これもまた、しかり。

 時間ばっかりが過ぎて行く。今も、今までも。こんなんでいいのかなって思うこともあるけど、思うことしかできない。じゃあどうすればいいのって、考えることさえやっぱり虚しい。


 自分の中に答えがないのが、こんなに虚しい事だなんて。


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