13 《prince side》

 夏休みも中盤に差し掛かった。そんなある日の自宅で、俺は父親とテーブルを挟んで差し向かいになっていた。目の前に父さんがいる。夏休みだからいつも通り帰って、家でゆっくり休みたかったんだろうに、俺の目の前に姿勢を正して座っている。父さんは少し疲れた表情をしていたけれど、俺のために、俺の話を聞くために、ここにいてくれてるんだ。

 母さんは、「あんたが話すの」とばかりに目で圧力をかけてくる。冷房の涼しい風がひやりと頬を撫でた。

「父さん、俺さ……」


 強く決心していたことなのに、声に出そうとすると、躊躇いが邪魔をする。この躊躇いは、俺の中の良心なのか。

「ここに、残りたいんだ。陸上を続けるために」

 父さんは、岩のように動じない。一度ゆっくりと瞬きをして、それだけだった。


 全て言ってしまえ、ということか……?


 「陸上で食っていこうだなんて思ってない。ちゃんと勉強もする。でも俺、陸上が好きなんだ。今の仲間が好きで、走ることが好きなんだ」


 頭の中を巡る、走り続けてきた日々。足を動かす俺の隣にはいつも誰かが、陸上部の誰かがいた。



back TOP next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -