11 《Prince side》


 やるべきことを奪われた俺の目の前に一つやるべきことが姿を現した。だからその目の前のことに熱中せずにはいられなかった――俺が文化祭準備に貢献する理由を挙げるとしたら、こう言うしかないと思う。クラス全員が「かったりぃー」とか言ってる雰囲気なら別だけど、そんな悪い空気は全くない。打ち込むことを失ったのはみんな同じなんだ。少し、肩の強張りが解けた気がした。

 北島が書いた[王子]は誰の目からも青臭く、日常生活を送っていれば一生言わないようなセリフばかりが目立った。断じて俺はこんなキャラではない(たとえ一目惚れした相手に告白するシチュエーションでも、「僕の近くには他でもない、君にいて欲しいんだ!」なんていう希少価値の高い男はこちらからお目にかかりたい)。初めこそそんな歯の浮くようなセリフに笑いそうになることも――周りの奴らが笑うからなんだが――あったが、劇の練習は日に日に熱を帯びてきた。主に、

「もっと大きい声出してみ、そうそう!」

「そこで観客見て。説得力違うから」

「このシーンはこんな感じで。『父さん待ってくれ!』はい、こんな感じ」


(北島ってこんなんだったか?)

 おそらくクラスの全員が胸に抱いているだろうこの驚愕。北島の、[脚本家]への変貌ぶりに、誰もが驚きを隠せない。だからこそ、みんなが本気で取り組む気になったのかもしれないけれど。

「あー今違ったよ、[シンデレラ]。一応そこのセリフは『どんなにお継母さんにいじめられたって、お姉さんたちに馬鹿にされたって』だね。……まあまずは空気・雰囲気が伝わるのが最優先で、セリフは二の次。気にしすぎなかったのは良かったよ」

 言うことも、いっちょまえだ。北島が頼もしく見えて微笑ましい。
 ところで[シンデレラ]こと小田原さんは、この文化祭で部活単位の出し物も予定していて、その準備にも駆り出されている。ダンス練習や演技練習には参加しているものの、放課後はそちら側を優先しているようだ。俺はバッチリ暇人だし、北島に言えばいつでも練習に付き合ってもらえるから、長いセリフもだんだん頭に入ってきた。しかし小田原さんはそううまくはいかないようで、俺の次にセリフが長いのに、何か大変そうだった。

(大変なら、そう言えばいいのになあ)

 たとえ[脚本家]に間違いを指摘されても、素直に感じ良く受け入れるひたむきな[シンデレラ]を見ていると、いつもそう思う。


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