10 《Playwright side》
贔屓目なしに、クラス全体の士気は今のところ悪くない。サボりもいなければ邪魔をするやつもいない。いち[脚本家]として言うが、主人公格の二人、[シンデレラ]こと小田原さんと、[王子]こと宇藤が特に熱心に練習に参加してくれるのはありがたい。そのおかげの、このクラスの雰囲気である。
今日までの認識だと、僕北島という人間は意外にも人前で話すことに苦手を感じていないようだ。恥ずかしくもない。大きい声も出ている。意外なのは多分、機会がなかったからだろう。しかし演技となれば話は別だ。自分ではない自分、作られた自分を人前にさらすのは一般的に考えてあまり気の進まない話だと思う。僕は台本をいざ書こうとした時、できることならキャスト個人の色を崩さないように書きたかった。というのもやはり、演技者本人が自分の役柄に疑問や羞恥心を抱きながら演技するのは違うと思ったからだ。……結局、僕の技量の限界とタイムリミットがそれを許さなかったのだけれど。
とにかくこの二人のおかげで練習日程もつつがなく消化できているというものだ。このまま進んでくれればいいんだけどね。
「もういいか?」
[王子]が待ってましたとばかりに自分のダンス練習を中断してやってきた。その手にはもちろん台本。
「休憩時間は休憩しろよ」
「それじゃあ、間に合わないだろ」
さて、どんな劇になるのやら。
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